チャンポン麺、東京に進出

いまさらチャンポンがどうしたとか、なにを寝ぼけたことを、と思っているでしょう。
確かに現在ではチャンポン大流行とまではいえないかもしれないが、リンガーハットはあるし、どうしてこんなところに、という場所に「昔からありました」風情で構えている店は多い。

しかし、それは嘘だ。
私が上京してきた1976年当時から、実はチャンポンという汁麺はあった。あったが、それはチャンポンという食い物ではなかった。通常の中華麺にとろみをつけた炒め物がごそっと乗っているものを勝手にチャンポンと詐称していただけである。

私は3度の飯よりチャンポンが好きだ。ラーメンとチャンポンがあれば少し迷ってチャンポンを取る。白米とチャンポンであれば議論の余地はない。昼、夜チャンポンでも全く問題ないどころではなく、嬉しい。

どうしてそんなことになったかは精神分析を受けたわけではないのではっきりしないが、多分、下関時代休みの日の昼食がほとんどチャンポンだったからではなかろうか。なかろうかじゃなくて、それしか考えられんな。母親の味、あれはおふくろの味ってまだ言うんですか?まあ、母親が作っていたのだからそういうことでもいいのだが、チャンポンがすごいのは母親が作ろうが、自分で作ろうが同じくらいか、時として私が作った方がうまいことがあることである。

母親は焼きチャンポンという、これは東京ではなかなかお目にかかれない、あちらでしか食えないものであるが、自分で食べる時はそれしか作らないからである。
私の妹2人は下関では母親の影響を強く受けていて、焼きチャンポンしか食わない。
汁チャンポンのうまさを理解できていない、笑止千万な方々である。

そんなわけで、私は学生時代から帰省するたびに大量にチャンポン麺を購入してきて毎日一人で昼飯にはチャンポンを食っていた。

これは別のところで書いたのでそれ貼り付けちゃおうかな。

私が中野に住んでいた頃、ミキちゃんと岡部が酔っ払いによくアパートに来ていた。
お金がないので人のアパートで飲むのである。
一軒家なのだが、一階はおばさんが一人で住んでいて、二階を改造して6畳の部屋をふたつ作って貸していた。
当時はあのあたり(中野本町)はまだトイレが汲み取り式で、夏になるととんでもないことになっていたのだが、そんなことは普通知りたくないだろうから、どうしても知りたい人だけに教えてあげます。お便りください。

みんな貧乏な時代であった。
私が見つけてきた三軒茶屋三井信託銀行の戸別ビラ配りのバイトでかすかす飯を食っていた。彼らも人が足りない時は動員していた。
関係ないが、私は長くやっていたのでバイトの調達から、配布地区の指定までこなしていたのである。
頭を使うバイトをしようという意思がまるでなかったのが不思議である。

下関から帰ってきたときには
「旨いもん食わしちゃるけー、おいで」
と招待していた。
招待とは言ったが、ただでとは絶対に言わなかった。
そこで余っているチャンポンをご馳走してあげるのである。
遅くなってもやしとか炒めているだけで、ほんの小さな物音にも敏感に反応する大家のおばさんが怒鳴り込んでくるので、早いうちにチャンポンを作る。
あの頃から具が多いのが私のチャンポンの特徴で、ふんだんに海鮮も使っていたので、お金がかかる。
連中が「うまい、うまい」と食い始めたところで切り出す。
「一人500円でええよ」
「えっ!お金取るんかね」
「何でただやと思ったかね」
「いや、食わしちゃるってゆーたけー」
「このちゃんぽんにはお金がかかっとる」
「友達から金取るんかね」
「商売しとるわけやない」
「でも、500円は高くないかね」
「ごちゃごちゃゆーとると、のびるよ」
とこういう具合に下関の味を楽しんでもらっていた。
私にも何故500円も取ったか謎であるが、当時は当時でやむにやまれぬ事情があったのであろう。
現在デフレとはいえ東京のリンガーハットでもチャンポン550円くらいである。
いったい30年以上も昔に何があったのであろうか。
ただ、こいつらにただで食わせると、その月、仕送りが来る前に食えなくなる、という危機感があったことはほのかに覚えている。

そんなことがあっても、連中はそれからもちゃんぽんを食いに来ていたので
うらみはないだろう、と思っているのだが、今でも
「イモはちゃんぽんでワシらから、金取ったねえ。なんで?」と聞く。
ほんと、なんでかねえ?

さて、なぜこんな話が重要なのか理解できていない方がほとんどだと思うが、実はつい最近まで下関から九州にかけて店で売られている、蒸チャンポン玉は東京では購入不可能だったのである。

ところが最近、すこしずつそれを見かけ始めた。
下関で買えば、安いところでは4玉99円というまるで経営感覚のない値がついていたりするが、東京で買うと1玉99円というこれまた出鱈目な値がついているが、売っている。

東京で蒸チャンポンが食えるとは思わなかった。
向こうから出てきて自宅でチャンポンが作りたかった方々、イトーヨーカドーで置き始めてるみたいです。味は全く問題ありません。お試しください。

写真はニッシンのもの。なべ用になっているので多分モツ鍋に開発したのだろう。無名のメーカのもあったりします。そちらのほうが好感が持てたりする。