白熱教室

くーっ!俺って勉強家じゃん。
日本経済新聞社が主催するサンデル教授と考える「社会保障と税」ってセミナーに、正直に現在の私の危うい暮らしぶりを記入して応募したら、「どうぞ、来てください」って葉書が来たよ。写真を添えていたならまず落とされていたような気がするんだけど。
そんなわけで暇で暇で仕方がないってわけでもない私は、昨日、会議をサクサク終わらせていただき、味噌ラーメン+半チャーハンをかき込んで会場に向かったのであった。インド、ネパールで大活躍してくれたカーゴパンツはいて行った。入れてくれたからすごい。

ハーバード大学マイケル・サンデル教授の講義は一昨年だったか、どこかのテレビ局で一挙に再放送という視聴率無視の作戦で12時間録画をさせてくれたので、ありがたいことに私のハードディスク内蔵テレビの中でまだ元気に育っている、ってことはないだろうが、スタンバイOKの状態である。

この講義がやたら面白い。内容もそうなんだけど、教えるということがどういうことなのか、初めて理解できた。私のように大学の講義にろくすっぽ出なかった人間が偉そうな感想を言ってはいかんが、自分の講義ノートを見ながら、ほとんど学生に聞こえない声でつぶやきながら、黒板に黙々となにやら書いていた教授がいたが、あれはなんだったんだろう。
文学部で「社会保障と税」について議論しましょうなんてことはないが、何かほかに方法があったんじゃないの。

サンデル教授は学生と教授、学生同士の議論で授業を進める。学生をその気にさせる技は神の域に達している。神があんなに優しい顔をしているのかどうか怪しいが、まず、怒んないんだもん。この議論の流れなら普通こう返すだろう、という期待を裏切る学生がいても怒らない。「困ったちゃんだなあ」、くらいの陰がさすことはあるが、「オメー、人の話聞いてろよ」とは言わない。
名前をまず言わせて、あとから「彼はこう主張したが」じゃなくて「シンはこんなことを言ってたよね」と名前でサマライズしていく。これは参るよな。やたら難しい単語を使わないのもいい。ハーバード大学の講義が英語で理解できるとは思わなかったが、ちゃんとわかるもん。頭のいい人はわかりやすく話すんだよ。私はその点、頭がいいのか、悪いのか不明である。

さて、昨日の講義である。
あまり詳しい様子を書くと日経から怒られそうな気がするので、軽く触れつつ、というつもりで書きますから境界を少し越えるくらいは許してね。
日経主催なのでオッサンばかりかと思ったら、違った。最初に質問に立ったのは19歳の学生だもん。やるなあ。声は少し震えていたけど。
会場は満員。教授が聞くんですよ。年齢層を知りたいんで手を上げてくださいって。30歳以下がざっと見て30%くらいか。私は40歳代で手を上げるか、正直に告白するか迷ったが、30代以上には挙手を求めなかった。
ここは日本でハーバード大学じゃないんだから、みんなそんなに積極的に発言しないよ、とまず教えてあげようと思ったら、私が忠告する前から、ガンガン手が上がる。どうも様子が違うな。みんなハーバードの学生のつもりか。
「ここでそんなこと言うか、お前」というトンチンカンな方も少しだけいたが、皆さん勉強もされているようで、よどみなくご自身の主張をされている。全然噛まない。みんなラジオパーソナリティになれるんじゃなかろうか。
私は最後の最後で発言をして華々しく散ろうと思っていたら、いつの間にか時間になって、教授がまとめに入ってしまった。
よかった、じゃなくてすごく残念。

社会保障と税」の問題はどえらく長く議題には上っているが、議員のまともな議論を聞いたことがない。「いや、議論はしてるんだけど、メディアが取り上げないんだよ」と反論するが、していない。議論ってのは「話し合う」ということですぜ。何が大切か、優先順位をつける話し合いをするってことですぜ。根回しをするってことでも、政権奪取のための道具にするってことでもありませんぜ。この問題は昨日も鋭い指摘が参加者から出たが、終末医療にもつながる、「どう生きますか」という哲学的命題でもあるんだぜ。頼むよ。誰に頼むべきかわからなくなっちゃったけど。

帰り道、バス停で寒風に吹かれながら「ハーバード大学に行こうかな」「歳を考えろ、その前にテメーの頭とよーく相談してみろ」と一人でボケツッコミをしていた。
興奮しながらも、身体も心も寒くなった私である。

インド、オールドデリー。このまま極端に狭い路地に突っ込むリキシャに乗る、金持ってそうなガキ共。この中で一人くらいはハーバード大学に行くような気がする。