運転免許更新

FBに女性の友人が書き込みをしていた。

免許更新
よくある失敗

頭がボサボサすぎる

上記3行に淋しげな夕景の写真が貼り付けてある。

ゲー!こりゃ大変なことになったと思って家中駆け回った。
どうして免許更新に失敗するんだよ。
簡単な講習受けて、しばらく待つだけなのに、どんな失敗をすれば「免許あげない」って言われちゃうんだろうか。「ボサボサ頭の女は免許取り消し」だったのかな。そんなこといってたら俺はどうなるんだよ。「ハゲにはあげない」ってことにもなるかもしれんよ。そんなことになったら絶対に訴えてやる。
官憲の横暴も極まったな。

あるいは、とうとう講習の先生に悪態をついたかな。「やるときはやるなあ。やるやつだと思ってたよ」と感慨深かったのだが、もう一度よく見たら、「よくある失敗」とある。先生に「バーカ」とか言っている奴、見たことないよな。向こうだってそれほど真剣に話しているわけでもないし。

あら、これは免許がもらえなかった話じゃなくて、犯罪者に仕立て上げられたということかもと、ようやく落ち着きを取り戻した。
運転免許を持っている人間には犯罪者が多い。免許証の写真を見れば一目瞭然じゃん。
世の中に恨みを抱いている人間がこんなに多いのかと驚く。免許証見比べ御覧なさいよ。

私はにっこり笑うことにしているのだが、笑っちゃダメ、と言われるですよ。なんで?
外国人の免許証やパスポートはローラみたいな笑顔なのに、日本は犯罪者がデファクトスタンダードなのか。おかしな国だよ。

まだ確認は取れていないが、アヤちゃんは免許を更新してもらえなかったんじゃなくて、脱獄囚みたいになったんじゃないかな。今度写真送ってください。ここで紹介しますから。

とりあえずよかったね、なんだけど、その書き込みを読んで40年くらい前に免許を取った時の悪夢を思い出してしまった。どうしてくれる。

私は大学の夏休み、たまたま楽な家庭教師をしていた時期に免許を取りに行った。
下関でのことである。そこが何なのこれは、というとんでもないところだった。
なんだか目つきの悪い教官たちだなあ、と怯えていたらその中でも一番悪そうなのが私の担当になった。私はそのあたりの勘ははずさない。

初めて車に乗り込み、何をしていいのかわからず指示を待っていたら、いきなり舌打ち。
「なんか、お前、車運転するん初めてか」
「はい。免許持ってなかったんで」
「なんかー、面倒しいのおー」
あんたはあれかね、無免許運転常習者専門の教官かね。口に出そうになったが、怖くて何も言えねえ。
初めての一時間は地獄。わかるわけないじゃん。アクセルをゆっくり踏みつつ、クラッチを離していく。すると私の場合は、ガックンガックン車が痙攣し始める。「クラッチ!!!」と教官が怒鳴る。
「お前何回ゆーたらできるようになるんかのー」
「なにー!舐めたことゆーとるの。どねーなことになるんかわかっちょるんか」というような仁義なき戦いには絶対にならない。
「はい。すみません」
「すみませんで、運転できるんか、おい」
「できません」
「はよ動かせや」
「はい」
ガックンガックン
「お前、本気でやりよるんか、一生免許取れんど」
教習車は究極の拷問部屋である。

そいつに限らず、そこにいる教官は全員暴走族とおぼしき連中とは至極仲がいい。一緒にタバコを吸って、楽しそうに談笑している。その若者たちは未成年ですよー、私もタバコは吸いますが、ここは一応教習所じゃないんすか、と口の中でつぶやくが誰にも聞こえない。

数日我慢したが、限界が来た。
親に頼る気はサラサラなかったが、つい愚痴が出た。父親が待ってました、という感じでジョニ黒を持ってきて、「これを教習が始まる前に、車の中で渡せ。人の目に付かんように」と言う。君は医者じゃなくて本当はマフィアだった?
「嫌じゃ、そんなことしてもあの馬鹿には通じん」
「間違いなく効く。信用せー」
「何てゆーて渡すんか」
「暑中見舞いです、ですぐわかる」
麻薬取引かよ。

全てが嫌になってジョニ黒持って逃げようかとも思ったが、最後のチャンスに賭けてみた。
車に乗るなり、すぐに動いた。
「先生、これ暑中見舞いです」
「なんか」と言いながら袋の中を見る。
「すんなっちゃ」
「いえ、本当につまらんもんですみません」
「もうすんなよ、後ろに置いちょけ」
「はい」
ということで、それから先は天国ではなかったが、まるっきり待遇が変わった。1日2回乗車できるよう時間を調整してくれたり、教え方もジョニ黒渡す前とは別人28号。

すんなり免許が取れてしまった。
父親が一番役に立った出来事である。

最近の教習所はどんな具合なの?
ずいぶん変わりましたか?
若い女性の教官を集めている教習所があるという話を聞いたこともありますが、本当でしょうか。
そんなとこがあれば本物の天国だな。
2度と足を踏み入れたくない場所NO.1だ。

一応礼儀だと思い、これでおさらばというタイミングでその教官に「ありがとうございました」とお礼を言いに行った。
「2度とここに来んなよ」とぬかした。ここはやっぱり監獄だったってことかよ。

下関、中学校へ通った道。ほとんど変わっていません。