声が出ない

私の場合、声が命というタイプのラジオパーソナリティではないので、たまに物好きな方から「いい声ねえ」と言っていただくと、すぐに調子こいて木に登りそうになるが、そんな声ではないことはよく知っている。いい声ってのはジョンさんだとかクリスさんのような声を言います。

であるから、別に今更声がどうのこうの言うことないんじゃないの、と思うでしょう。
違う。
普段話すのにも、カスカスのかすれ声になってしまった。

実は年末から必要な外出以外は一切やめてしまい、毎日本だけ読んで過ごしていた。
友人がそう長くはないことがわかっていたので、現実から逃避したかったのかもしれない。だからノンフィクションにはほとんど手を出さず、小説ばかりを選んで物語の中にどっぷり浸かっていた。
私は感情移入が激しいので、本の中の人間になることができるのである。
そうなっている間は現実で何が起きるのか、起きたのかを頭のどこかへ仕舞えていた。

そんなことを10日も続けていた。
そしたら声がうまく出なくなった。
普段の会話でさえ喉に何かが引っかかったような感じで、前に声が飛ばない。
若干風邪気味ということもあるのかな、でもそういうときはもっとずっとひどいことになる。

声を出していないせいなのである。
女優さんや売れているナレーターに聞くと無闇に話をすることのほうが喉にはよくない、とおっしゃるがレベルが違う。こっちはお金をもらう以前の話をしているのである。

私の場合は歌と同じ。
しばらく歌を歌っていないと喉が閉じてしまって、すごくうまいはずの歌が、誰も振りむいて拍手をしてくれなくなる。そんな日はもう翌日は声が出なくてもいい、というくらい歌い続けるとあるところでコロッと喉が開いた、という実感を伴いつつカラオケ上手な人になる。
歌手の皆さんはそんな出鱈目な練習はしないだろが、毎日丁寧な発声練習は必ず行っていらっしゃるはず。

一昨日くらいから声が出ないことに気が付いたが、じゃあ、何でもいいから話をしましょう、という相手がいないのでやはり本を読んでいたら、事態は本格的にまずいということが分かってきた。
「大倉にちょっと仕事でもさせてやろうか」といきなり声をかけられて、「今日来てくんない」とか呼ばれたらどうしよう。「喉の調子が悪くて」じゃ、「じゃ、まただね」ということになってしまう。
フリーランスは「できません」と言ったら終わりなのである。

それにもかかわらず、「できねえよ、そんなの」とか言ってきたからこんなことになってしまったのだ。ちゃんと心を入れ替えて「何でもやりたいんですけど、嫌なものは嫌です」じゃなくて、「やります。どんと来い」くらいのことをかましてやんなきゃイカンだろう。

今日あたりから、ちゃんと発声練習を始めよう。
声がカスカスのオヤジと呼ばせないようにしよう。
皆さん、現実逃避して、本を読むのもほどほどにしないとこんなことになりますよ。
毎日会社に行っていれば、嫌でも何でも話をしなきゃいけないんだろうけど、自宅で仕事というのはこんなリスクも負うな。

一人で写真を撮りながら旅をしているときにも同じことに気が付いたことがある。人と話をしたくなくなるんだな。
そうなると、問題の根本は私の生き方ということになるんじゃないかしら。
そこまでの話になるとまた深く潜ってしまうな。

そういえば、私は泳いだ翌日もカスカス声になってしまう。
ラジオの仕事の前の日は泳がないようにしている。
一体何がどうなっているんだろう。

ラオスルアンパバーン
一緒に泳ぎたかったのだが、パンツ一丁で飛び込むと完全な変態オヤジになるのでやめました。