村上春樹狂想曲

ゴロゴローゴロゴロー、あー暇でなんにもすることないなー、このまま寝ちゃって、起きたら村上春樹になってるといいなー。

そんな奴は何度生まれ変われたとしても絶対に村上春樹にはなれないんだけど、今朝のニュースを見て、驚いちゃって一瞬そんな邪な思いが頭をかすめてしまいました。
この本が売れない時代に夜11時に代官山蔦屋の前にあんな大行列作るかな。

「もう待ちきれません」
「買えたらすぐに読み始めます」
「抱きしめて寝ます」
「本の重さを味わうだけでも最高だよね」
「ねー」

重さを味わったら、もういいやということになるのかなとまた邪悪な気分になったのだが、すんごい長さの行列を作って、知らない人同士が何となく連帯感持って、和気あいあいあと寒い中立ったまま笑顔でいるというのは個人的には少し気持ちが悪い。
それをまたテレビ局が他のニュースを見つけられないからか、見つける気がないのか、あっても無視なのか延々とその様子を追っているので、見せられた側は「いかん、俺も読まなきゃ」ということになるんだろうか。
初版で50万部ですぜ。50万部。50万部。50万部。
一晩で村上春樹はどすこい的なお金を手に入れるんだ、というのはとんでもない間違いで、書き上げるまでにどれだけ時間がかかっているのかを考えると、そんなことは口が裂けても言えない。お金のことだけならもっと苦しまずに印税の何百倍も稼ぐことも可能である。私には不可能だけど。

行列が嫌いな私は絶対に並ばない。あの代官山で並んでいた人たちの中には「バイクで2時間かけて千葉から来ました」と気合い入れて話していた方もいたが、千葉にも書店あるでしょ。どうして代官山なの?12時ちょうどにどうしても手に入れたい?
大きな本屋だったら予約してなくても今日行けば絶対に買えますよ。で、買ったらまたバイク飛ばして帰るんだろうな。そしたら疲れて寝ちゃうんじゃないの?
バイクの方々だけじゃない。都内の人も終電大丈夫?タクシー?歩いて帰る?本当に帰ってからすぐに読み始めんの?

テレビじゃ「しばらくは寝不足の日が続くことになるしょう」と締めくくってたけど、オリンピックじゃないんだからさ、本一册ですよ。そこまでして買った人はかかっても数日でしょう。
煽りがすご過ぎないすか。別に村上春樹が望んでるわけじゃないでしょう。

私も村上春樹は好きだけど、好きではないという人も結構いますよ。
そういうもんでしょ。
出版不況が深刻度を増している中、出版される意味が分からない本、内容がどれを見てもほとんど同じ本が「売れる」という理由だけで平積みされている世知辛い世の中ではありますが、これはもしかしたら村上春樹よりもずっと面白い、腹の中をえぐってくるという本もたくさんありますよ。
今回の村上春樹を買う人は是非書店をもう一回りして、一冊、これかなと思う本も買っていってほしいな。
本を読む醍醐味は果てしなく広がる活字の海の中から、自分の好きな本、作家を見つけるということでもありますよ。

私のところには本日「色彩を待たない多崎つくると、彼の巡礼の年」が届きます。
どんな話なんだろう、といろいろ考えるんだから、新聞もテレビも余計なこと書かないように。
カンヌの小さな浜辺はこんなおかしな色で埋め尽くされてます。