輪廻転生

ドイツの新聞、Welt am Sonntag紙の取材を受けダライ・ラマ14世が語ったことが広く各国メディアで取り上げられている。
日本でももっと大騒ぎになるか、と思ったらそうでもないのね。
「う〜ん、とうとう言ったか」と私は深い感慨に耽っていたんだけど、みなさんはそうでもないですか?

ある意味、チベット仏教の最高指導者がチベット仏教の根幹に関わることで卓袱台ひっくり返したんですけど。
全文を読みたいんですが、見つからないので英語と日本語の記事を集めてみたんだけど、少しずつニュアンスが異なっております。
チベット仏教ではダライ・ラマに限らず、輪廻転生を認めており、ダライ・ラマ、パンツェン・ラマが亡くなると、複雑な手続きを踏んで転生した少年を探し出し後継者とし、その役割を受け継がせてまいりました。
約450年続いて来た制度なんですけどね。
具体的にどう言ったかが若干異なりますが、要は「輪廻転生を前提とした後継者選びはやめにする」と語ったわけでございます。
自分が死んでも、転生した者を探すのをやめれ、ということです。
チベット仏教は一個人に依存するものではない。我々は高度に訓練された僧侶、学者を持つ非常に組織化された構造を持っている」とおっしゃいました。

もともとチベット仏教に於いては政教一致が原則だったのですが、現ダライ・ラマが「政治指導者の立場を離れる」と宣言した2011年からは集団指導体制が敷かれております。
「それはおやめください」と周囲から懇願されても、頑として聞き入れず、そうしちゃった方ですから、今回の発言もそれほど驚くことではないと言えばないのですが、じゃ、ダライ・ラマは14世が亡くなるといなくなるのか、という大問題にも過去「ダライ・ラマの目的は果たされた」と語っているので、やっぱりいなくていい、という結論なんでしょう。
そうか、そういうことになるとなんだな、チベット人は心の張りを失ってしまうんじゃないかしら、と勝手に慮ったりするんだけど、いかがでしょうか。

ただ、今回の取材の中で、輪廻転生自体を否定しているわけではない、という一文もありました。
「生きるものの苦しみが続く限り私はこの世界に戻ることを希望し、祈っている。同じ肉体でなく同じ精神、魂を持って、という意味ではあるけれど」
この発言の意味は微妙で、ダライ・ラマ14世は転生するけれど、機能としてのダライ・ラマはいなくなるというふうにも取れるし、ただ輪廻転生という宗教的意味をあえて否定しなかっただけ、とも取れるんです。
おそらく、これ以上突っ込んだ発言はしなかったと思いますが、そのあたりどうなのかは「113歳まで生きたい」とも語っているダライ・ラマ14世がそのうちに明らかにしてくれてるかもしれません。

輪廻転生の思想は何もチベット仏教に限ったものではなく、ヒンドゥー教にもジャイナ教にもあるし、イスラム教の一部宗派にも、弾圧されなくなってしまったキリスト教カタリ派にもその片鱗はうかがえます。
古代エジプト古代ギリシャにも同様の思想がございます。

さてと、で、私の見解など聞きたくないでしょうけど、一応申し述べさせていただきます。
原始仏教を中心に学んだ者といたしましては、輪廻転生は非常に認めにくいのであります。
原始仏教ではこうなっているから、各宗派の言っていることはおかしいという意味ではありませんから、ここで怒って大倉を叩くことはおやめくださいね。
仏陀は弟子達から、「死んだのち私達はどうなるんでしょうか」「この世に生まれ変わるのでしょうか」と聞かれても、「そんないくら考えてもわからないことで思い悩んでも意味がない」として、一切答えることはありませんでした。
原始仏教を学べば学ぶほど、もともとの仏陀の教えは宗教色が薄く、この世界で正しく生きていくための心得という印象が強くなります。
バラモン教へのアンチテーゼとして生まれた思想ですから、それもうなづけるところが多いんです。
のちに解釈が分かれ、多くの宗派が生まれていきますが、それはそれで意味のあるところでしょう。
ですから、否定はしませんが、私個人としましては、どちらでもいい、と輪廻転生につきましては一見いい加減な立場を取っております。
しかも私はこのいい加減さは自分ではかなり気に入っておりまして、今後もその立ち位置を変えることはないと思います。

わからないから面白い、ということもあるでしょう。
ちなみに現在のインド仏教界の最高指導者、佐々井秀嶺導師はインドでの仏教復興を主導したアンベードカル氏の「仏陀は輪廻転生を否定した」との見解を受け継ぎ、輪廻転生を否定されています。
この方の生涯は波乱に満ちたもので、山際素男氏の書いた「破天」を読むとホント仰天しますよ。

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しかし、ダライ・ラマ14世は相変わらずラジカルな方だと今回の発言で深く感じ入りました。

ネパールで一番大きいチベット仏教寺院ボドナートにて。