迷う私

現在私は新横浜駅そばの東横インでこの原稿を書いている。
用事があったからである。

新横浜で下車したことは一度もないのに誰にも道を尋ねることもなく、野生の勘が冴えわたって、まっすぐホテルにたどり着いた。ただ、私は勝手に東急インを自分で電話して予約していたはずなのに、何故か東横インだったのが一生解けない謎である。
東急インのあるべきところに東横イン東横インのレセプションの女性に「東急イン東横インは同じですか」とお聞きしたところ、薄ら笑いを浮かべて「全然違います」とお答えになる。馬鹿なことを聞いてしまった。名前が違うんだから、違うに決まってんじゃん。

しかし、予約があったんだから、予約したんだろう。
これ以上妙な詮索はよそうと切り替えて、すぐに約束の場所に急ぐことにしたが、ここからが心配だったんで、何度もレセプションで場所を確認させていただいた。
「右に出てしばらく行くと線路を越えることができる小さな道があるので、それを左に入るともうすぐです」
ここまで聞けば間違いない。普通はそうだ。私は普通じゃない。

インドのジャイサルメールというすごく小さな町で、「私はどこにいる」状態になって、親切なインド人の若者連中にゲラゲラおまえこんなとこで何迷ってんだよ、と半ば馬鹿にされつつ、宿までの道を教えてもらった。

先日は2度も恵比寿でどこにいるんだかわからなくなって、2度とも30分くらいさまよった。何で?地図持ってるのに。不可解である。聞くところによると地図をプリントアウトして持ち歩くのはじじいとばばあだそうな。若者よ、あんまり50歳以上の人間を笑ってるとひどいことになるから、月のない夜は気を付けとけよ。

やっぱり迷った。
東横インを出て小さな道を見つけるまでは順調だったのだが、そこからが迷路になっていた。ちゃんと区画整理された迷路。どうしてこんなことになるのかわからない。さんざん歩き回って、目的地にたどり着き、後ろを振り向くとわずか50メートル後方に東横インの大きな看板が「馬鹿じゃねえの」と笑いながら私を見下ろしていた。

写真はインド、ベナレス、ガンジズ河のほとり。ここまでくれば迷うことはないのだが、途中で小道に入り込むと初心者は泣くことになる。私はここで迷うことはない。