人生はビギナーズ

自分の75歳の親から「私はゲイだ」と告白されて、私の人生は変わるか?
少し変わるな。
母親との関係はどうだったのか、「そういえばあの時」なんて思い出もあるかもしれない。
私のところの場合はゲイじゃなかった、と思うよ。
どうなんだろう。死ぬ前に聞いときゃよかった。

この映画はマイク・ミルズ監督の身に実際起こった父親のカミングアウトをベースに作られている。
この手のものは笑い飛ばせるコメディにするのが最も楽だと思うし、チラシを見るとずいぶん明るいイメージで作られているので勘違いするかもしれないが、テーマは「孤独」である。

クソ生意気なことを言うと、監督自身も気がついていないかもしれないが、主人公は父親のカミングアウトと死がきっかけで深い「喪失感」に苦しんだのではない。父親と亡くなっていた母親との関係に影響を受けたのでもない。
人間は誰しも孤独だということに気がついただけである。

人は孤独であることをどこかで理解しているから、友人、恋人を求め、友情、愛情を支えにしようとする。
支えになるものが、必ずしも人間でなくて、物質だったり、アイドルといわれる幻想だったりするが、孤独感が深まるとやはり触れ合う人が近くにいて欲しくなる。欲しくない人も多分欲しくなったほうがいい。

ユアン・マクレガーが主人公だけど、こんなに演技うまかったかな。こういう役が回ってこなかっただけか。

メラニー・ロランがどうしたって輝いてしまうのは仕方がない。
こんなに綺麗でエキゾチックな魅力に溢れている女優はなかなかいない。
「オーケストラ!」という映画で、最後に泣いてしまうのはメラニー・ロランチャイコフスキーのバイオリン協奏曲二長調のせいである。カス映画も泣かせる映画に出来る貴重な女性。あらっ、女性になっちゃった。俺が好きなだけか。

人生はビギナーズ」は明日公開。

孤独感ってアジアと欧米では違ってるんじゃないか。
キリスト教圏での孤独はきっとアジアよりもずっと辛いように思える。
イギリスにいたとき、そんなふうに感じたことがある。
自殺大国日本にいる人間の言うことじゃないか。

ロンドンでバリバリ仕事をしているようなフリをしている私。今の私と違っているのはネクタイと頭の毛だけ。
この写真を撮られる瞬間は孤独感、感じてなかったね。