光市母子殺害事件

昨晩からこの事件については繰り返し報道されているし、「専門家」が解説を加えているので、詳細につき私が新たな解釈を披露するつもりは全くない。

ただ、事件について感じること、死刑という制度について思うことを少しだけ。

この事件を知ったとき、私の娘は5歳であった。
本村さんと同じような状況に置かれれば、死刑を求めるのが当然だと思った。
加害者が少年であろうが成人であろうが関係なく死刑しかないと信じていた。

それから死刑に関する本を何冊か読むことになった。

本村さんが昨日「悩み続けた13年だった」という内容のことを話をされ、死刑の是非については結局裁判官であろうが、たまたま裁判員になった人であろうが、死刑が存在する国に住んでいる我々は考え続けるしかないのだと改めて思った。

国家が人の命を奪うということである。

高校生の時にディベート大会を主催した時に「死刑は是か非か」をテーマにしたことがあったが、どちらのサイドについた人間も悩みながら議論をしていた。
それを見ていた私も同様に悩み、今でもそのときと同じように悩み続けている。

永山則夫が事件を起こし続けていた頃、私は小学生だった。下関に現れるのではないかと、怖くて仕方がなかった。少しものが考えられるようになって「無知の涙」を読んで、何がなんだか分からなくなった。

無知の涙 (河出文庫―BUNGEI Collection)

無知の涙 (河出文庫―BUNGEI Collection)

育った環境が永山の人生を大きく変えてしまったことが明らかだったからだ。
「同様の育ち方をしても、みんなが事件を起こしているわけではない」という議論はもっともである。
その通りなのだが、人間はいかようにも変わることを知ってしまった。

「A」の監督、森達也が「死刑」という本を出している。
森氏はこの本の中で様々な人を取材しながら悩み続ける。
帯の「人は人を殺せる。でも人は、人を救いたいとも思う」という言葉が内容を表している。

死刑 人は人を殺せる。でも人は、人を救いたいとも思う

死刑 人は人を殺せる。でも人は、人を救いたいとも思う

美達大和という人がいる。仮名で何冊か本を出している。
無期懲役刑で服役中だが、仮釈放の申請をしないと決めている。
自分が犯した罪と向かい合うと仮釈放は申請できない、という結論に達したとのことである。

死刑絶対肯定論: 無期懲役囚の主張 (新潮新書)

死刑絶対肯定論: 無期懲役囚の主張 (新潮新書)

この本を読むと、唸ってしまう。
詳しくは読んでいただきたいが、彼によれば「哀しい事実だが、犯罪者のほとんどは反省しない」ということである。真偽については確かめようがないが、彼の長い服役生活の中で実感したことだと聞かされると、無視はできない。

美達氏は「夢の国」という小説も出版している。父親をモデルにしながら、自分とも重ねて書かれたものと読める。非常によく書けている。

夢の国

夢の国

堀川恵子氏が「裁かれた命」という本を書いている。
冒頭に元最高検察庁検事の土本氏がインタビューに答えて光市母子殺害事件で死刑判決が出たことについて「あれは、ちょっと厳しすぎるんだよね・・・」と答えている。聞いた堀川氏自身も驚いたそうである。土本氏はそのほかの死刑の例についても、非常に慎重であるべきで、死刑の意味についてもっと深い理解が必要であることを訴えている。
この本は土本氏が30年の検事生活の中で一度だけ死刑を求刑し、判決が確定し、執行された事件につき、のちに激しく心を揺さぶられることになったことをルポルタージュしたものである。
この本を読んでさらに分からなくなった。

裁かれた命 死刑囚から届いた手紙

裁かれた命 死刑囚から届いた手紙

そんな本を読んでいると、意外な本に出会ったりする。

死刑の是非について問うたものではなく、死刑囚が作った俳句を北山河、北さとりの親子が編集しまとめたものでる。ただただ、心が打たれる。

処刑前夜―完全保存版

処刑前夜―完全保存版

表紙に三句が載せられている。そのうちの一句。

「満開の 花を手にして 死にたくなし」