自分大好き

昨日打ち合わせの帰りに、30代、独身、女性、ブログ探しマニア、でありつつ優秀なアートディレクタ−に、「このあと大倉さん、ちょっと」と呼び止められ、いきなり彼女を仕事に巻き込んでしまった私は猛反省し、「何でもお話させていただきます」と覚悟して、いわゆるサテンへ連れて行かれた。

仕事の話は特に揉めることもなく、サササッと私の手際よい説明により終わってしまったのだが、こいつとはそのあとがいつも長い。話が面白いし、かつて私がいた業界のこともうまいことつまみながら解説してくれるんで、気が付くと2時間くらいたっていたりする。

大方愚痴も含めて話が終わったところで、お決まりの質問をしてみた。
「そういや、お前俺のブログ読んでる?」
「読んでますよ。毎日」

さすがブログ探しマニア。気に入ったのはブックマークしていて、毎日欠かさず読んでいるらしい。
どうも10人くらいは追いかけている様子。
私のを読んでいるのは間違いなさそうなのだが、私から「読んでるか」と聞かれるに決まっているから一応読んでいるっぽい、っと推測していたのだが、次の思いもよらぬ発言で事態は急変した。

「大倉さんのブログ読んでいると、大倉さんって自分のことが大好きでしょうがない!って感じがしますよね」
「よね」じゃないんだよ。
キャー、どこが?
「どこがっていうか、なんか全体的に」
「全体的に、じゃわかんねえんだよ。ナルチシズムが染み出ているってことか?」
「あ!俺様はこんなにすごいんだぜ、とかそんなんじゃないです。なんか大倉さん、いろんなこと書いた最後に自虐的なことちょっとチョロっと付け加えてるところが、自分大好きって感じがするんですよ」
「なにー、じゃ、お前これ読んでみろよ、そんなこと書いてあるか、これはどうよ」とやつのエクスペリアを駆使して、難詰していった。

「いやー、こういうのにはないですね。でもあるんですよ」
そう、あるのである。
自分がよく知っている。
しかし、よくそこから「大倉自分大好き論」を導き出したな。

こいつは論理的に考えることはあまり得意としていないが、直感力がある。
ある人間のブログが何故面白いのかうまく説明できないのだが、それを星屑の数ほどあるブログ群の中から探し当ててきて、教えてくれる。確かに面白い。

「でも、それがなんで自分大好きになるんだよ」
「うまく説明できないです」
「頭悪いね」
「悪くないです」

なんか占いみたいじゃん。
「そういえば俺は自分大好きかも」と思い始めたじゃないか。

しかしだ。自分が大嫌いなやつってどういう人間?
確かに俺は自分が嫌いじゃない。でも、自分大好きとも思っていないかな。

「お前は自分のこと好きじゃないの?」
「好きですよ」
「だろ。自分が嫌いじゃ、人生辛いぞー」
「そうですよ」
「じゃ、俺は自分大好きでもいいじゃん」
「いいんじゃないですか」

自分が嫌いな人間がブログなんて書くはずがないのである。
従ってやつの言っていることは正しい。

だけどなー、「自分が大好きな大倉です」は、55になるオッサンの言うことじゃないだろう。
「自分を客観的、批判的に観察しつつも、肯定的に受け止めている大倉です」くらいにしといてくんないかなー。頼むよ、中村。

このオッサンはインドのバラナス、ガンジス河の川のほとりで、頼むから写真を撮ってくれと寄って来た。じゃ、とカメラを向けると「ちょっと待って」と言ってポーズを考え始め、「はいこれでお願い」「次はこれね」と何枚も撮らされた。自分の住所を書いて、「必ず送ってね」と紙切れを手渡された。
帰国してプリントを送ったが、何の音沙汰もない。
私は自分の写真が嫌いなので、インドでやつれて興味ある顔になったときに鏡に映し、一枚だけ撮ったことがある。自分で撮ったのはそれっきり。