イップ・マン

カンフー映画ファンならすでに映画館に駆けつけて見終わっていることと思うが、「イップ・マン 誕生」が始まっていますよ。

この映画は数奇な運命をたどっている。
どのくらい数奇かというと、日本での上映が過去へ過去へとさかのぼっていることである。
カンフー映画ファンならそのあたりのところは、どうでもいいことだと納得いただけるはずである。
一本の映画がその時に我々を興奮させてくれればいいことだからである。

しかい、まあ、経緯をひと語り。
2008年に第一作目「イップ・マン 序章」が香港で作られた。
まずここがおかしくないか。いきなり「序章」ってタイトルつけて公開するかね。しません。
原題は「葉問」英題は「Ip Man」であった。
これっきりのつもりだったのである。

従って当初は日本での公開予定はなかった。
そのあたりのところ配給会社の方々がどのようにお考えだったのか、お時間がある時に詰問させていただければと考えております。

2010年に一作目が当たったので2作目を作りました。
これが邦題「イップ・マン 葉問」、当然原題は「葉問2」英題は「Ip Man 2」。
これを日本では先に公開してしまったのである。
2011年2月12日のこと。

第2次大戦後、貧乏な詠春拳の先生がどん底の生活から弟子を取ってコツコツ頑張り、最後には…」という話なので、どうしてそんな辛い生活なの?やっぱ日本のせい?と少しだけ違和感ががあるが、いいんだよ。気にするな。
公開する順番が入れ替わっていただけのこと。

しかし、この2作目を小さな小屋で細々と、と考えていたところいきなりバカ当りしてしまった。
これはいけない、ここで畳み掛けるように、とその1週間後にもともとの一作目を邦題「イップ・マン 序章」として公開した。
こちらは「栄華を誇っていた詠春拳道場に日本軍が乗り込んできて…」という日本ダメじゃん、の映画なんだが、映画の出来はこっちのほうがずっといい。池内博之もかっこいいんだから、こっち先で良かったんじゃないの?
しつこいが、それはもういい。
DVDが両方出ているので借りて順番どおり見てください。

さて、ここで紹介するのは前2作に加えて、現在公開中の「イップ・マン 誕生」である。
若きイップ・マンの成長、恋、そして思いもよらぬ裏切りの物語である。
当たればどんどん作る。映画の基本である。
次作はブルース・リーを鍛えるイップ・マンということになるんじゃなかろうか。

そう。このイップ・マンこそがブルースリーの師匠である。
我々を熱狂の渦に巻き込み、何度も映画館に足を運ばせたブルース・リー
どれだけ香港の道場に入門しようか悩んだものである。
行かないんだけど。

高校で私同様カンフーに見せられたバカがいた。鮎川だ。今どこで何やってんだか。
小倉までカンフー映画が公開されるたびに見に行っていた。「片腕カンフー」なんて荒唐無稽なのもあってね。ひどいのになると早回しにして技の切れをよく見せようとした許しがたい映画もあったね。
千葉ちゃんが主演のもあった。
何しろカンフーだったらほとんど人は入ってたんだから、当時の熱狂はすごかった。

私と鮎川は学校では休み時間に廊下で正拳を打ち合い、それを跳ね除ける技を誰に習うこともなく、勝手に映画の見真似で必死に練習をしていた。違った。鮎川は勉強しなかったが、私はちゃんと陳家太極拳の高校生にはどえらく高価な教本を買ってきて型を覚えていたのであった。
「フン!」「ハッ!」なんちゃったりして。

しかし、それで数少ない女子生徒にもてるもんだとばかり思っていたんだから、今考えると地獄に落ちて欲しいくらいの阿呆である。

案の定、その後どういうわけか弁論部に所属していた私どもの元に、
「お前に気があるはずやど」
と言い合っていた一年下の女生徒が二人、入部したいと部室にやってきた時には椅子からころげ落ちるほど驚いた。
恐る恐る、私と鮎川の愚行について聞いてみたところ、「バカが二人、と思っていました」とのこと。
少しほっとしたのはなぜだったんだろうか。

この「イップ・マン」とは紛れもなく人の名前なのだが、「葉問」は中国の普通語の発音とは一致しない。
普通語では「イー・ウェン」である。もともと広東省での話なので「広東語ですよ」でかまわないんだが、普通語の発音だけ書かれたウィキを見るとあらっと思う。
ウィキの書き方にやや問題がある。
気になった方は、そういう具合に解釈していただいてかまいません。

カンボジアプノンペンの早朝、川沿いで「太極拳だー」、と駆け寄ったらわけのわからない不思議な振り付けで、おばさんたちが踊っていた。