僕達急行

森田芳光監督は最後に見事なスローボールをストライクゾーンギリギリに放って逝った。
バッターボックスに立った私はあまりにもそのボールの描く曲線の美しさに見惚れて、バットで打ち返すことすら忘れていた。

思い返せば森田監督はいつも不思議なボールを投げる人だった。暴投もあった。あまりに速い直球でボールが揺れて見えることもあった。急角度で落ちるフォークボールも持っていた。
毎回、新作を見に行くたび、期待と不安でドキドキしていた。

一度、ラジオ番組に電話ゲストで出演してもらったことがある。
私が今使って見たい役者は?とメチャ振りしたら笑って「それはちょっと言えないなあ」と話していた。

ちょうどブラッド・ピットエドワード・ノートンが出演した「ファイト・クラブ」が話題になっていたときだったので、「じゃ、ブラピとエドワード・ノートン、どっちでしょう」と押したら、「それはもう、エドワード・ノートンでしょう」と答えてくれて、私は自分が映画監督になった気分になって大満足だった。

こんなに好きな映画監督はもう私の人生では出てこないんじゃないだろうか。

昨日、映画を笑顔で見ながら、少し泣いた。