役に立つ本

自己啓発書というのは昔からある。
大昔からかというとそうではなく、多分30年前くらいからじゃなかろうか。
新興宗教が何度目かのブームを迎えていたころに、「自己啓発セミナーに行って、私は変わった」という人が私の周りでも数人いた記憶がる。

新興宗教が啓発セミナーの衣をかぶって行っていたものもあるだろうが、ユング派から分かれていったニューエイジ系の心理学を基にしたものもあったので、なんだかわけのわからない本がジャンスカ本屋に並んでいた。売れてたんだろうな。うらやましい。

うらやましいんだが、それを買った方々は「素晴らしい人生」が開けて幸せになれたんだろうか。
これは調べようがないですねえ。
人生がこれ一冊で変わる本、なんてあるわけがない、と思うんだけど、変わったという人がいるのならよかったね、だ。

私なんか岸田秀の本読んで、「お先真っ暗、面白いことなんてまるでない」と落ち込んじゃったのだが、落ち込んで「人生馬鹿馬鹿しい」と思っているうちに開き直っちゃったので悪いことばかりではない。いまだに本が出るたびに読んでいる。何十冊も手元にある。

「同じことしか書いてない」と本人も言っているので騙しているわけではない。「あー、同じことしか書いてなかった」っと納得するするための本である。
どの本も根っこは同じだが、まだ手にとったことのない人は「ものぐさ精神分析」は読んでみることをお勧めします。一度思い切り落ち込んでみましょう、という他に例を見ない本の紹介。

ものぐさ精神分析 (中公文庫)

ものぐさ精神分析 (中公文庫)

ずっと本の紹介の番組をラジオでやっている。一時期、本屋の前で張っていて、「どんな本がお好きですか」と聞いていたことがあるのだが、これが結構面白かった。
声質と読んでいる本が全く違ってたりする。声で人を判断してはならん、ということです。
どえらく難解な哲学書を読む人、ライトノベルが好きな人、翻訳ミステリーにしか手が伸びない人。
意外に読む本のジャンルを決めている人が多かったのに驚いた。
エロ小説しか読まないという人は、さすがにいなかったが、嘘ついてたかもしれない。

番組で言っちゃったけど、私なんか中学生のころ川上宗薫宇能鴻一郎の本を買うために、海を渡っていたくらいだから。

そんな面白いコーナーだったのだが、割合までは覚えていないが、非常に印象的だったのが「ビジネス書を読みます」という人が多いことだった。ドラッカーはいろんな人が解説書を書いていて、ついに「もしドラ」まで出たので、不思議ではなかったが、一般的に言われるビジネス書というものが何なのか結局わからずじまいだった。
スティグリッツクルーグマンを読んでいると言われれば、そうか、経済学からビジネスを学んでいるのかと納得したが、そういうふうでもなかったし。

世界大不況からの脱出-なぜ恐慌型経済は広がったのか

世界大不況からの脱出-なぜ恐慌型経済は広がったのか

世界に格差をバラ撒いたグローバリズムを正す

世界に格差をバラ撒いたグローバリズムを正す

役に立つかどうかは分かりませんが、上記2冊なんかは比較的読みやすい。

で、今日の日経に出ていた本の広告を見てまた「ほー」っと思った。

「一歩前に踏み出せる 勇気の書」現状打破、限界突破したいあなたへ送る、なんて書いてある。
「働かずに一億稼ぐ考え方」クーッ!たまんないね。
「酒飲み、肉三昧でも一生太らない食べ方」これはビジネスとは関係ないか。
「金持ちになる男、貧乏になる男」数百人の億万長者に聞いてわかった、金持ちになる100の秘訣、らしい。つまり書いた人は金持ちじゃないってことですかね。
「損をしない思考法」成果を出しているのに評価してもらえない、仕事を頼まれてばかりで自分の時間がない、こんな損な生き方とは今日でお別れ、だそうだ。お別れは少し淋しくないですかね。

毛色の違う本もあったが、どれも大反響!、即重版!、絶賛の声!だらけ。

この手の本は今日日経で初めて広告が出た本じゃなくて、本屋に行けば、タイトルも覚えられないくらいビジネス書のコーナーに平積みしてあって、タイトルの通りに読者が行動できていれば、日本経済は光り輝き、株価は天井知らず、やる気のある人が多すぎ、暑苦しくて気温上昇の原因になってるはずなんだけど。
なっていない。
日本国民全員が読んでないからなのだろうか。
ダメじゃん。
時代がずれているが、一億総懺悔だ。

世の中は「金持ちか貧乏か」「損か得か」「勝つか負けるか」もう、それ以外にはないってな感じね。
あと「痩せてるか太ってるか」もか。

「役に立つ本」、疲れそうだから読む気しねー。

14年前のミャンマーで、商売しながら金握り締めて寝ているおばさんを見た。
この人は勝っているんだろうか、負けちゃったんだろうか。