頭を気遣ってくれる人

昨晩のBOOK BARでは私がおかしな本を持って行ったばかりに、杏さんを泣かせてしまった。
ブースのテーブルに突っ伏してヒーヒー声を上げて泣いていた。今飛ぶ鳥を落とす勢いの杏さんを泣かせても責められないのはきっと私くらいのもんだ。

しかし、話が続かなくなるほど切迫するとは思わなかった。
笑いも度を超すと、息ができなくなるらしい。
おばさんたちはさんざん何が面白いのかわからないことで大笑いしたら、涙を拭きながら「あーあ、笑った、笑った」で一区切りつけるのだが、やはり若い人は気持ちがいいくらい笑いが持続するね。

杏さんが盲腸で入院したアカツキにはお見舞いに行って、傷口が開くまで泣くほど笑わせ、充分な休養が取れるようにするから、いつでも声をかけてください。

先週は「ピダハン」というアマゾン川上流に住む、我々の視点から見れば極めて「変わった」少数民族の話を真面目にしたので、昨日はお笑い本を持っていったらそうなった。厳密に言えば杏さんは本自体に笑ったのかどうかは不明で、その本と私のマッチングに涙を流して喜んでくれたというほうが正しいかも。

先週のはこの本。

ピダハン―― 「言語本能」を超える文化と世界観

ピダハン―― 「言語本能」を超える文化と世界観

で、昨日の本はこれ。
部長川柳 おっさんの説明書

部長川柳 おっさんの説明書

あれだけ笑って、泣いてくれれば多少は疲れも取れたんじゃないかしら。

杏さんは私の頭のことを番組が4年半前に始まったときから、心配してくれている。
私が東南アジアの旅から帰ってきた翌日が初打ち合わせで、杏さんは黒光りしている私の顔と頭を見てしばらく引いていた。私も怖がらせちゃったな、と反省したものである。

本気で心配してくれているとわかったのは、杏さんと彼女のお友達のオッサン連中と4人でゴルフに出かけたときのことである。
その日はピーカンで紫外線がもろに頭頂部を直撃する暑さであった。
私が支度して颯爽とカートに集合すると、杏さんがやさしく声をかけてくれた。
「大倉さん、頭、そのままで大丈夫なんですか」
「全然大丈夫、俺はインドでもミャンマーでもカンボジアでもラオスでもベトナムでもすべてこれで通してるんだよ」
「でも、何かかぶらないとそのままじゃ」
「帽子とかかぶったことないから、それが気になってスコアが乱れるんだよ。それに俺は頭頂部から半端じゃないくらい汗をかくんで、帽子がビショビショになって気持ちも悪いんだよ。それより自分のスコアの心配をしよう」とゴルフ場に数回目の杏さんを逆に励ましたのであった。

なーにを言っとるかだ。
タオルで頭を拭き吹きしながら久しぶりに18ホール回ったら、杏さんのスコアのほうが上じゃん。
あー、もう風呂も入らずにすぐに帰りたい、と願ったのだが、一休みということでレストランのテーブルに着いたら杏さんはスコアのことには全く触れず、ただただ私の頭の心配をしてくれている。
確かに杏さんが心配してくれていた通り、頭が熱持っているな、と感じ始めていたが、ここはスコアのこともあるのでやせ我慢が適当であろうと判断し、平静を装った。

帰宅すると頭が朦朧としてきた。軽い熱中症なんだな。
頭が痛い。内部と表面、両方痛い。
額にヒエピタを張って、保冷剤を頭頂部に乗せ、タオルで固定して、ようやく落ち着いてきた。
こんな感じだ。

朦朧としているので、ピントが合っていない。

そんなことがあってもう3年以上もたっているのだが、ことあるごとに杏さんは「大倉さん、何かかぶったほうがいいですよ」と心配してくれていた。

そんなこんなで私の今年の誕生日が来てしまった。
今年も杏さんはプレゼントを用意してくれていた。ありがたくいただくと、中にはお酒が。あー、嬉しいな。今年も一年いいお酒が飲めそうな気がするな、と上機嫌。
中にはもうひとつ柔らかなものが。これはお酒じゃないな。じゃ、あとでね。
と、番組終了後、杏さんが「大倉さん、もうひとつも開けてください」と促すので、包みを開いてみたら手ぬぐいが。猫の絵柄の手ぬぐいだ。台所仕事に精を出せということかな、と思ったら。
「頭にお願いします」とおっしゃる。
そうか、まだ心配は続いていたんだ。
よし、一丁巻いてみるか。
スタッフの皆さんも杏さんも「おお」「似合う、似合う」「職人さんみたいだ」と口々に誉めてくれる。誉めているのはきっと私じゃなくて、杏さんのセンスなんだけど。
でもさ、「職人」って何の?

その場では鏡がないので、自分では確認できなかったが、あんまり持ち上げるので、「これで外歩いても平気かな」と聞くと、「すごくかっこいいですよ」とのこと。
よし、わかった。私には最近恥ずかしいという人間の基本的感情が欠けているところがあるので、その気になったぜ。
こんなふうになる。

確かに職人さんだ。鼻の下で結んだらどろぼうだ。
私の顔をおぼえられなくても、猫の絵手ぬぐいを頭に巻いたヒゲ親父がいたら私だ。
絶対に声はかけないでいただきたい。