アイドル応援隊

某放送局の前で夏休み企画が催されていた。
どの局も同じようなことやってるんでしょうか。やってんだろうな。
通常夏休み企画にはお子様たちが一杯で夏の思い出を作られているはずなのだが、炎天下の2時に通りすがったところ普段はガラガラの舞台前の席がかなり埋まっていた。おじさんたちで。
こういう光景を目撃すると無条件で「俺も」と座りたくなる私である。

ずいぶん前、お台場の新記という香港麺を出す店でワンタン麺を食ったあとぶらぶらしていたら、似たようなセッティングが組んであったので、手嶋葵が来ないかな、とじっと待っていたら、金色ラメのピッタリ全身タイツのようなものを着込んだ太ったおじさんが現れた。お腹は当然膨れている。ピエロかな、と思ったんだけど、歌い始めちゃったんだな。後ろにやはりやや太目の女性二人をバックに。
太っている人がみんな汗かきというわけではないだろうけど、あんまり一生懸命で汗びっしょり。

これは大変なものを目撃していていると気付いた私は、その場から動けなくなってしまった。
怖い。
怖いけど、不思議だ。怖いけど、面白いじゃなくて、不思議。
どうも数人のファンらしき人がいたようだけど、関係者かも。
この人「遊星からの物体X」関係の方で、いきなりお腹辺りからすごいものが飛び出したらどうしよう。逃げたほうがいいかもとほんの少し身構えたんだけど、おかしなもので怖いものは見ていたいんだよ。人間は。

おじさんの汗は度を越している。
汗を顎から滴らせ、手拍子を強要しながら踊り、歌う。
しびれるなー。

と、おじさんは歌を歌い終わると、おもむろに客席に入り込んできた。
一人ひとりの目を覗き込んで、無理やり両手で客の手を掴んでいる。
やっぱり逃げなきゃ、と思ったときには私の前にいた。
「ありがとうございます。応援よろしくお願いします」といいながら、私の両手を前に差し出した。
こういう場合の人間の反応はどうなってるんだろう。
私も片手だけど手を出しちゃったよ。汗でびしょぬれになっている両手でやさしく握手をしてくれた。
おじさんは自分でやりたいことをこつこつと努力されているのに、私はその気もないのに握手をしてしまった。これはおじさんへの冒涜じゃないかな。

それ以来そのおじさんに出くわしたことがない。
名前も瞬時に忘れたので、検索もできないが、きっと応援してくれている人はいると思うから頑張ってください。私は応援しないけど。

で、放送局前の小さな広場の客席に座って何が始まるのか確かめたかったけど、打ち合わせの時間ギリギリだったんで、仕方なく立ち去った私だ。
5時半に出てきたら、ライブをやっている。少女たちが歌って踊っている。知っている人たちなのか、知らない人たちなのかわからないが、小学生、中学生くらいの年頃の皆さんと思われる。気になるので今調べてみたら、さんみゅ〜(β)という方々らしい。やはり全然聞いたこともない。
その方々は楽しそうに飛び跳ねているので、それはそれでいいんじゃないかと納得感があった。

気になるのは、あのお台場で動けなくなった私に相当する観客の皆さんである。おじさんと少女たちだから本当は比較にならないのだが、これも不思議な光景であった。
小学生、中学生ですぜ、舞台の上にいるのは。
ところが客席中央に陣取ってタンッタタンって手拍子打ちながら、奇妙な指の形を作ってほっぺやら口の周りでしぐさを作っているのは、30代、40代のおじさんたちだ。ところどころに楽しそうに同じことをしているおばさんもいる。ときどき「おー!」と大声を上げるからびっくりするぜ。

恥ずかしながら、このような光景が秋葉原で目撃できることは知っていたが、現物を見るのは初めてだ。
皆さんが人に迷惑をかけずに、好きなことをされていることに何の文句もないし、ああ、楽しそうだな、と思ったのはその通りなのだが、びっくりしちゃうのもこっちの自由だ。
もうお盆休み終わってると思うんだけど、わざわざ夏休みとったのかな。凄まじいバイタリティだ。私にはその元気はないもん。
「おー!」で拳骨突き上げてるもんな。
イラク戦争反対!」「おー!」ってやって以来記憶にないな。
ラオス行くぜ」「おー!」もやんなかったし。

そうか最近のおじさんたちはこんなに楽しそうに「おー!」をやっているのか、と感慨深いものがあったな。
しみじみとそのまま地下鉄へ向かっていった私であった。

思わず楽しさのあまり「おー!」ってやりたいな。
何かないですか、って聞いているやつのところには、楽しいことはやってこないんだよ。
掴みに行かなきゃな。

あー、この子可愛いじゃん。