魚釣島と釣魚島

9月15日のブログに中国残留孤児2世の方のタクシーにたまたま乗ったことを書いたが、実はあの夜話した内容はそれだけではなかった。議論をしたわけでもなく、自宅近くで「そういえば」という感じで運転手さんから話が出たので「へー」と思っただけで、降りてしまったのだが、その「へー」が気になってこのところ疑問に思っていることを調べている。

一応私の考えていることを最初に申し上げていたほうが誤解がないと思うので簡単に。

尖閣諸島は日本の領土だと判断して問題ないと考えています。
かなり乱暴ではあった部分も否定できないけれど、1895年の実効支配以来、一時は魚釣島には日本人が住み、鰹節工場があり、「領土」としての実態があり、1970年あたりまで中国は領有権を主張していなかった、というところからです。

さて、タクシーを降りる前に運転手さんから聞いたのはこれです。。
「領土問題はよくわかりませんが、確か魚釣島という名前はかなり前に中国がつけたと聞いているんですけど、とにかく、この騒ぎは早く終わって欲しいですね」
とうことでした。

中国での尖閣諸島の名前は釣魚島。日本名は島に限って言えば魚釣島。同じ名前である。
中国語では他動詞のあとに目的語が来るので、日本語とは逆転する。
恥ずかしながら、それまでは似ている名前だなとは思っていたが、同じ名前だという「発見」はなかった。

日本語のウィキペディアによれば魚釣島の語源は「魚國」「いをくに」からだという説が紹介されている。なるほどね。なのだが、ではどうして中国では釣魚なんだかわからない。偶然ですでは説明がつかない奇跡的なこと?
中国では日本史専門だった故井上清京都大学名誉教授の学説を頻繁に引用して、尖閣諸島は中国の領土だと日本向けに強くアピールしている。井上名誉教授は一貫して中国共産党シンパではあったが、その論文の中で私の興味を引いたのは「16世紀中旬には釣魚諸島は『釣魚島』、『黄毛嶼』、『赤嶼』など中国の名前を持っていた」という記述である。このまま書いてあることを事実と受け取ってしまってはいけない。
ただ、それに続き「1534年に中国福州から琉球に渡り、明朝皇帝の冊封使、陳侃が書いた『使琉球録』がある」としているのでそちらを調べてみた。
するとこうある「10日平嘉山を過ぎ釣魚嶼を過ぎ黄毛嶼を過ぎ赤嶼を過ぐ」これは尖閣諸島に当たる部分の記述である。
おそらくこれでも充分ではないだろうが、名前は中国が先につけていたという主張も吟味する必要があるように思う。

これで、また「大倉、非国民」てなことになるのかもしれないが、どうなんでしょう。
本当のとこ知りたくないですか、今のところ私は前述の通り尖閣諸島は日本の領土と解釈するのが妥当だと書きました。歴史をさかのぼると様々な民族が交差している土地があるのは当たり前のことで、いつ誰が住んでいたから自分の領土だと主張し始めれば世界中で戦争が始まることは目に見えています。極端な事例はイスラエルです。現状、かの地で紛争が治まる様子はありません。
中国が500年前に名前をつけていたから、中国領土だというのも乱暴です。
おそらく運転手さんも「だから中国領土だ」と言いたかったわけではないと思います。

私が報道を見聞きして不思議だと思うのは常に「1895年以来、日本が実効支配しているのだから中国の言っていることは根拠がない」の一点張りでそれ以上歴史的な経緯について触れないことです。

1895年は日清戦争が日本の勝利で終わった年です。
あの時代は列強が中国領土を虎視眈々と狙っていたころで、中国はすっかり弱体化しており、日本の言うがまま遼東半島、台湾、澎湖列島を割譲し、多額の賠償金を払うことになりました。
その時に日本は「慎重にどこの国にも帰属していないことを確かめた上で尖閣諸島を日本領土として実効支配を始めた」わけです。
私が冒頭で「かなり乱暴」と書いた理由は上記のことからです。
当時の中国は荒らされまくっており、南の小さな島がどこのものだろうと論戦するより、それ以前に本土をどう守るか守れないかの瀬戸際にありました。
文献が見つかるかどうかわかりませんが、日本が大量に領土を割譲させた年に「この島は中国のものですか」と聞いたんだろうか、という疑問は湧いてきます。

また、1970年あたりまでは中国は領有権を主張していなかったではないかという指摘もその通りなんですが、当時は毛沢東による大躍進運動が大失敗に終わり、失脚しかけたところで文化大革命を仕掛けて国内は大混乱の真っ只中でした。おそらく内部闘争で領土問題に関わる余裕はなかったのではないかと推測します。
もちろん国内の混乱は中国内部の問題ですから、あえて日本が斟酌する必要はないのですが。

「で、大倉、お前は何を言いたいの」という方々がたくさんいらっしゃると思います。私は「一歩も譲らない」と声を張り上げるよりも、中国の主張をちゃんと聞いてみて、議論を積み重ね、解決に向かう道を探るほうがよほど建設的なのではないかと考えます。
その中国が聞く耳持たないんだからしょうがない、という方もいらっしゃるでしょうが、現在中国は指導部交替闘争の真っ只中で、勇ましいことを言っていないと不利になるという状況にあります。
自衛隊の船が出るなら、戦闘を辞さない」と軍部はぶち上げています。

落ち着くまで待ちませんか。
「中国は話のわからない馬鹿ばっかりだ」というのはとんでもない大間違いです。
アメリカの一流大学で国際法、外交、経済、政治を学んだエリートたちが官僚に連なっている国です。「話せばわかる」とは言いませんが、話せば必ず対話は可能です。

どうですかね。
マスコミもネット情報提供者も掘り下げるべきところを、掘ってみてはいかがでしょうか。

バカボンのパパもそう言うと思うんだけどね。