夜明けは腰痛とともに

夜明けにトイレに立つ。
腰が痛い。
「あー、腰が痛い」と用をたし、ベッドに戻るのだが、仰向けでは寝られない。
夜寝るときは、枕を高くして本を読むのだが、その体勢も長くは続けられない。すぐに腰が痛くなる。仰向けは腰に負担がかかる、という話は誰からも聞いたことはないのだが、自分の体が訴えているのでそんなに間違っちゃいないだろう。

40くらいまでは仰向けになったまま、両手を添えて起立したまま寝ているような人間だったのにどこで根性がひん曲がったか。何度かギックリをやってからだ。いや、ギックリはその前からあったな。

最初は24くらいの時、CM制作プロダクションの野球部合宿に行って、今朝から練習だという夜明けのことだった。
布団の中で体を少し動かしたら、腰に激痛が走った。無理な姿勢でもなかったし、前の晩に重いものを持ったということもない。
たまたまちょっと痛いだけだと思って、寝返りをうとうとしたらさらに激痛が。
で、動けなくなってしまった。
隣に寝ていた田村さんにお願いした。

「田村さん、田村さん、すみません」
「なんですか。何時ですか?」ものすごく不機嫌。
「4時です」
「なんなんすか」
「ギックリ腰になった」
「あー、朝になったら考えますから、寝ててください」
「でも、このままの姿勢じゃ辛いんだけど」
「今、どうしようもないじゃないすか。寝てください」

当時のプロマネは物事の手続きについては合理性を追求していたんで、彼は正しい。
何かを期待した私が馬鹿だった。

田村さんは飯食った後、針の先生を手配してくれた。
みんなが練習に向かった後、一人で治療を受けて、合宿に来たのにギックリ腰だけを抱えて、東京に戻った。

それから、ギックリ腰は私のお友達になった。
一度やると一生お付き合いをしなければならない。
親友じゃない。悪友?

トイレで立ち上がりざまに動けなくなる。
靴を履こうと座り込んだとたんにそのままの格好でひっくり返る。
単純に寝ていて起き上がれなくなる。
思い出せない。何度もやっているので、いちいち覚えてられない。

ある原稿をNYにいる友人兼編集者に送りがてら、「またやっちゃった」と愚痴をこぼすと、必殺ギックリ封じの秘法を教えてくれた。
朝晩ほんの10秒程度のストレッチでバッチリだと言う。
嘘でも何でも楽なことは試してみる。

仰向けになります。膝を抱えて思いっきり体を丸めます。丸虫になったような感じです。
仰向けに戻り、今度は手足を一本の棒のように力一杯伸ばします。
それを2回繰り返すだけ。
あら不思議。起きてから腰に手を当てていたのが嘘のように痛みが消えてしまいます。
おまじないみたいなストレッチだが、本当に効くから信じるものは救われるんだよ。

そのストレッチを始めてからギックリ腰になっていない。
ギックリでなくて腰が痛いときにはモーラステープを貼りまくるのだが、これも効きます。

今ギックリになっている人には勧めないほうがいいような気がするが、腰に不安のある方はお試しください。効いたらNYの大嶋さんに一緒に感謝してください。

すごく不思議なんだけど、荷物を背負って、カメラバッグを抱えて歩き回っている時にはギックリ腰になったことがない。歩けということなんじゃないか、もしかしたら。
写真はインド最南端、ベンガル湾、太平洋、アラビア海と三つの海が打ち寄せるカーニャクマリというヒンドゥー教の聖地。腰なんか全然気にならなかった。