浅草の灯が消えていく その1

昨日は見事な秋晴れで、FBにもあそこに行って気持ちよかった、自転車最高、ジェラートはここ、とか最高の日曜を過ごした方が多かったようですな。おかげさまで、昨日のブログ閲覧者は日頃よりずっと少なかったぜ。毎週末、雨になるように祈祷しちゃおうかな。

しかし、東京に住んでいて、昔ながらの面影が失われていくことに淋しさを感じている方々は出かけるべき場所が違ったんじゃないですかってことだ。
おら、もうやさぐれちゃったよ。
何か忘れちゃいませんかってんだ。

昨日を持ちまして、浅草から映画館が全てなくなりました。
六区は行くたびに姿を変えてはいたけれど、それでも踏ん張ってくれていたあの3館。
なくなっちまったよ。はい、これでお終い、だ。
日頃日曜に出かける習慣のない俺がカメラ握り締めて、涙流しながら一日浅草を歩き回ったよ。

浅草中映劇場は洋画専門。浅草名画座は任侠中心。浅草新劇場は日本の名作。
これが一度になくなった。
みんな同じ会社が経営していたからだ。

歩き回る前にまず映画だ。映画見る前に飯食っとこう。
劇場のすぐそばには昔からある愛嬌のある中華屋さんがある。

でも、ここは普通の値段なのでやめちゃった。
すぐそばにラーメン290円の「らあめん メンマル」があるんだよ。道路不法占拠で座れるところ作っているんだけど、もともとは立ち食いラーメン。浅草といえばここなんだよ、俺は。
安いじゃねーか。俺のようなおじさんたちばっかりだ。

ここのラーメンはほとんど素ラーメン。かすかなメンマ、もやし、チャーシューが入っているが大盛り頼むと麺しか感じないんだよ。
ここの大盛りは豪快に最初から二玉入っている。390円。
味は薄いしょうゆ味。時々味付いてんだっけと思うことがあるけど、腹が満たされりゃなんでもかまやしない。頼むと速攻で出てくる。ちゃんと茹でているから、すごく茹でやすい麺を使っている。つまり伸びやすい。だから、急いで食わないと。
しかし、久しぶりに食うと麺が多いな。これ普通のラーメンでも大目じゃないの?
食っても食っても減らないよ。
鼻水垂らしながらぶっ飛ばした。

見た目よけりゃ、いいんだよ。浅草に限っては。俺はここでは空気も一緒に食ってんだ。

ラーメンと格闘していたら少し遅れちまった。
目指すは浅草名画座だ。
「昭和残侠伝 破れ傘」の冒頭を見落とした。
豪華3本立て。あとで解説するよ。

入場すると驚いたぜ。満席だ。何十年ぶりだろう。立ち見だ。
本当は空いている席があるんだけど、おじさんたちが荷物置いてるから入り込めない。
立ち見もまた良しだ。名画座の最後を楽しむには立ってた方がふさわしい。
「なんだよ!この野郎」
「やかましい、なにすんだ」
時々、私よりもずっとお歳を召した爺さまに近い方々が席のことで揉めている。
でもすぐに収まる。
健さん見てると本当に人が変わっちゃうんだよね。健さんはただ黙ってこらえているだけなんだけどさ。

さすが浅草、映画の都だ。
昭和30年代にはこの周辺には30軒以上の小屋があって歩くのも一苦労の混雑。写真でしか見たことないけどさ。
名画座は男気を見せてくれたよ。
1972年、40年前公開のこの映画、ニュープリントでございます。フィルムに傷ひとつ入ってないよ。泣けるじゃないか。

すごい3本立てだよ。

「昭和残伝侠 破れ傘」72年公開のこの映画はこのシリーズ9本目の最終作だ。
オールスター集合だ。高倉健池部良鶴田浩二安藤昇たこ八郎(どこかにいたようだ)、若いチンピラには北島のさぶちゃん、健さんに「おめー、博打は下手だけど、歌はうめーな」と風呂に頭突っ込まれてたぜ。大学の先輩、よく学校で見かけた檀ふみさんも出ていらっしゃった。イモの演技だったけどな。まだ高校生じゃねーか。

次は「男はつらいよ 寅次郎 紅の花」だ。95年公開、寅さんシリーズの実質的最終作だ。
渥美清は全身をガンに冒されていて、医者からは「出演は不可能」と宣告されていたんだよ。「奇跡に近い」とまで言わせた出演作だ。寅さん、顔には出さないけど、つらそうでな。すぐに横になっちゃうんだよ。涙が止まんないよ。浅丘ルリ子が山田監督に「リリーと寅さんを結婚させて」って頼んだんだよ。監督、次回にそうするつもりだったって。遅いんだよ。バカヤロウ。
前田吟が映画の最後にさくらに向かって言うんだよ。
「正月だからもう何もないんで、映画にでも行くか」
「いいわね」
「浅草、何やってんだろう」
で、何やってたんだろうね。

最後が「仁義なき戦い 完結篇」。
説明はいらねえだろう。74年公開、これも本編「仁義なき戦い」の5本目最終作だ。これはリバイバルじゃなくて、リアルタイムで見たよ。
小林明も菅原文太も映画の中では引退だ。

どれもフィルムに傷は入ってないよ。
3本、最高の組合わせ。

どの回も満席、どうも全部見た人は多くないようで、映画が終わるごとに入れ替わる。俺は全部見せてもらったよ。1200円。
見事な最後だったよ。
ありがとう。ありがとう。

浅草、続きます。