学生飲み

大学生の皆さんは入学してどのくらいかい。
あら、もう半年たっちゃったの。じゃ、もうすぐ卒業だ。
そんな具合に時間はたっていくので、「あー、あれやっときゃとかった」ってあとから思わないように充実した時間を過ごしてくださいね。
「あー、あれやっときゃよかった」しかない私からの真摯なお願いだ。

学生時代か。
何やってたんだっけ。恥ずかしいことばかりじゃん。とても書けない。学園祭のことはもう一本書くから待っててください。

何やってたかって、酒飲んでたね。
大学を居酒屋の待合室と勘違いしてたかもしれない。

しかし、金はない。肉体労働で稼いだ金を安い居酒屋で消費するだけだ。
私はまともなサークルに入ったことがなかったので、「先輩!」からごちになったこともない。
毎年扇風機を買う金を親にねだっていたくらいだ。妹と暮らし始めるまで、3台は扇風機が狭いアパートにひしめいていることになっていた。

気の合った連中とは、新宿戸山ハイツで毎週飲んだ。サロン戸山ハイツ。都営住宅
店に行けないから、何故か友人の親が借りていながら使っていない戸山ハイツが不良のたまり場になった。酒飲みながらタバコ吸ってどうでもいい話をしてんだから、高校生だったらただの不良だよ。
冬は鍋。いつだったか白菜が取れすぎた年は立派な白菜4つで100円だった。「やったな、これで腹いっぱいになる」と笑顔で持ち帰ったら、これ全部鍋に入れんのかよ、と嫌な顔されたけど、結果的には朝まで白菜鍋食ってたんだからよかったんだよ。

「みんなえのき大好きなんだけど、いつもあっという間になくなっちゃうんだよね。今日は3パックくらい買っちゃう?」ってのが一番の贅沢。あとは鶏肉ぶち込んで食ってたような気がするな。
そんなささやかな酒宴なんだけど、毎晩必ずもどす人間が出てくる。
あれは不思議なことに少し寝ると急に吐き気がしてきて、ぎりぎりセーフでトイレに這って行くことになるんだよ。

その処置には全員が慣れていて、背中をさする奴、塩水作り始める奴、横から「指突っ込め」と気合を入れる奴、自然と役割が決まり、吐くだけ吐かせると、「おー!」と雄叫びを上げる。
ま、それが普段の生活なんだけど、たまに外飲みが入る。嬉しいねえ。本物の居酒屋だよ。
一度池袋で立教、成蹊の連中とバンドの練習が終わったあと、市場最低価格の居酒屋に上がりこみ、「いくら飲んでも2000円しねーぞ」とハイテンションで飲みだしたことがある。なんだか日本酒が薄く感じたんだけど、気のせいだったか。気のせいじゃないぜ。

そんなことするからコップでがぶ飲みする奴が出てくる。柳原だ。柳原は酒は強いほうじゃないけど、酔っ払うと手がつけられなくなる、目つき悪く「いいから酒持って来い!」と大声上げるから勝手に飲ませてたら、突然畳みに吐いた。店員さんからはずっと「この馬鹿ども」という目で見られていたから、「すみません。畳みに吐いちゃいました」とはとても言えない。
困ったな。どうしよう。まさかもどしたものの上に腹ばいになるわけにもいかんだろう。
岡部が座布団で隠した。あーあ、やっちゃったよ。俺は知らねーからな、と突き放すわけにはいかないから、気持ちを込めてもう一枚重ねてしまった。
会計を済ませ、ぐったりしている柳原を両腕を抱え、ダッシュの構えができたところで、走って店を出た。

ごめんなさい。本当に申し訳ない。もうしません。
慶應じゃないよ、吐いたのは他校の学生だよ。お詫びにお金を持って行きたいんだけど、もうそんなビルないんだよ。どうすればいいかしら。そのとき店員でいらっしゃった方、このブログを見てたらご連絡ください。そのとき飲んでたメンバー全員集めてお詫びに上がります。

先日そんな話を娘にしていたら、軽蔑の目で睨まれた。
「あれはまずかった。ひどいことをした。ああいう安い店にはトイレの手前に大きな吐きどころがあって、『吐く人はこちらへ』って書いてあったんだけどな。間に合わなかったんだよ」と話したら、びっくりされてしまった。今はもうそんなものはないらしい。学生さんは飲まなくなっちゃったんだろうか。そんな話は聞きますね。

ちなみに柳原は両腕を二人でロックされているにもかかわらず、わけのわからないことを叫びながら大暴れ。するりと腕を抜け、思いっきり後頭部を地面に打ち付けた。死んじゃったかな、と思ったが生きてはいた。しかし、意識は宇宙へと拡散しているようで、これはいかんと救急車を呼んでしまった。救急隊員からは怒られたな。怒られて当然。「君たち大学は?」成蹊と立教と慶應だったんだけど、「立教です」と答えておいた。柳原は本当はどこの学校だったんだっけな。

そんなひどいことは学生時代は一度だけで、会社に入るともっとすごかった。

学生時代は厚揚げ時代で、荻窪の駒忠に行くとお姉さんと呼ばないといけないおばさんがすっかり顔を覚えてくれてて、入るなり「厚揚げ?」と確認してくれてすぐにビールと厚揚げを持ってきてくれた。なくなるとお皿をかざしただけで次の厚揚げがやってきた。
厚揚げは安くて量が多くて栄養があったんだよ。
あれはいい飲み方だった。

最近は番組をご一緒させていただいている杏さんも厚揚げにこっているそうだ。
厚揚げ大好きって人はあまり聞かないんでとても嬉しい。

娘がもう大学生だ。
ちゃんとしなきゃ、いまだに年に2回くらい吐いてるもんな。