ザ・レイド

下関には映画館が一軒だけある。
駅前のビルの中にシアター・ゼロという志高く命名された2スクリーンの小屋なのだが、今やそこも風前の灯。以前はこれをまあよく下関で、と感心するラインナップだったのだが、今ではこんなん掛けてどうすんだろう、と頭をひねるようなことになってしまっている。

下関を舐めていたな。高杉晋作が颯爽と登場したし、「龍馬伝」でも下関は明らかに下関では撮ってないな、とわかるどこだかわかんない感じでスタジオ撮影されておりましたよ。しかし、あの時代に真木よう子が長く下関にいたらしいから悔しいね。
そんなこともあってか、下関はスーパー文化都市になる、という幻想を抱かれていたのではないでしょうか。

しかし、これぞという映画を掛けてもさっぱり入んなかったんだろう。
いまや、カス映画じゃなかった、どこでも掛かるような人気俳優で引っ張る映画ばかりのラインアップになってしまった。雨の日に仕方なく、時間が合う映画を見てみたが、やっぱりカスだったわ。

200人弱の劇場で3人。
おばちゃんが映画が始まる前に、前の列で大声出して電話していたもんだから思いっきり席蹴飛ばしてやろうかと狙っていたんだけど、携帯を切るとこっちを向いて「ごめんね」とにっこり笑う。
タイミングを失ったな、残念、と下を向くと「二人じゃーね。いっつもこんなんよ」と解説してくれた。こりゃ下関から映画館の灯が消えるのも時間の問題だな。そのあとオッサンが入ってきたんで続くかもと思ったが、続かないな。

下関の方々は映画見ないの?
映画館がないと私暮らせないんだけど。
と、東京を振り返ると渋谷のミニシアターはどんどん消えていっているし、でかいコンプレックスも苦労している。映画自体が魅力を失っているんだろうか。そうね。失ってるかも。
原作を捜すのもいいけど、これは映画でしか表現できないって脚本書きなさいよ。
監督も役者も大事だけど、原作をいじるばかりじゃ映画撮る意味が半分くらいになるんじゃないの。
しかし、原作があるモノでずっこけるんだから、いい脚本が書けても同じか、動員の点からするとさらに悪くなるかもな。
そんなに携帯ゲーム面白いかね。
文句たれる筋合いじゃないことはわかってんだけど。
日本全国同じようなことになってるのかしら。

そんな時に登場したのがインドネシア映画「ザ・レイド」である。
先月27日から公開されているから御覧になった方もいると思うが、こんなハチャメチャな映画久しぶりに見たよ。
ストーリーなんて知ったこっちゃない。
悪の巣窟ビルにSWAT20人が突入。応援は何故か来ない。理由をばらしても差し障りはないんだけど、せっかくだから黙っていよう。
裏切り、絆をチラ見させつつ、ひたすら殺しまくる。
どんだけ殺してもゾンビのように湧いて出てくる悪い奴らはどこに隠れていたのか!が主題ではない。主題はわからない。

最後はあれだけマシンガンぶっ放していたのに、何故か「武器は趣味じゃねえ」ってことになって格闘でけりをつけるんだぜ。
あえて主題を問われれば、この格闘こそが主題である。
「世界最高の格闘技『プンチャック・シラット』」
知らないよ、じゃ済まされないらしい。
殺傷力を高めた軍隊式シラットは欧米の軍隊で取り入れられ、それをベースにしたローコンバットは世界50カ国において特殊部隊、警察、ボディガードが習得しているそうじゃん。

確かに強い。もうどこから足が出てくるのか、手が出るのか、「遊星からの物体X」のようなことになっている。
なんせこの映画は脚本ができる前から新しい振り付けを練っていたというんだから、何が見せたいのかは明らかである。

撃ちまくり、殺しまくりの映画はどんどんリアリティが失われていって、本当に撃たれた人間の姿は現れない。だから、と短絡的に結びつけるつもりもないが無人爆撃機の攻撃が当たり前のように報道され、決してその現場映像は公開されることがないので、ゲーム感覚の戦争での悲惨さが伝わらない。
「人間は戦争でただ意味を意識することなく死んでいくことがあるんだ」と感じたのは「プライベート・ライアン」のノルマンディー上陸の延々と続くシーンくらいではないか。

なんだか「ザ・レイド」を誉めてんのか、どうしたいのかわからなくなったが、この映画見ていると、いろんなことを考えます。少なくともアメリカのバカ戦争映画より考えます。

えーっと、蛇足ですが、オバマアメリカ軍をイラクから完全に撤退させたということになっていて、実際国軍は引き上げましたが、引き続き「セキュリティ会社」が武装してがっちり残っていますから、そのあたりのところよろしく。

これが「ザ・レイド」だ。