床屋は下関が発祥の地

しばらく理容室に行ってなくて、ヒゲは伸び放題、ハゲに見えるが実は雑木林状態の頭の毛がピョーンピョーンとパラパラ立ってしまい自分でも鏡を見て、これじゃ「禿山の一夜」じゃなくて「禿山の幻」だな、かなりの確度で浮浪者だな、と思っていた。
思っていたじゃすまんだろう。そう見えてんだよ。

ということで、久しぶりに髪とヒゲと顔と爪のお手入れに行ってきた。
また、「ハゲ、あたし好きですよ」って人が増えちゃうなあ、というくらい凛としたいい男になって帰ってきた。爪が光っていることについては議論の分かれるところであるが、まあ、1週間くらいのもんだから。

理容室とここで書いているのは、放送では使ってはいけない言葉になっているからだ。
日頃普通に使っていると、放送でつい「床屋」だの「八百屋」だのと言ってしまう。
本当は床屋って言いてー、とうずうずしている。
ガキのころ使っていた言葉はなかなか身体から抜けない。

一度杏さん相手にこれからハゲ談義で盛り上がるぞー、という時に私がつい「床屋」と言ってしまい、すかさず「大倉さーん、床屋NGでーす」とディレクターの指示が飛んできた。なんとなくその後ごめんなさいモードに入ってしまい、だらだらした会話になってしまったことがある。だから気をつけている。

商売をしているお店で「屋」とつくものは多いが、これはかつて日銭を稼ぐ商売を軽蔑を込めてそう呼んでいたからだそうなんだが、どうも馴染めない。言葉は移り変わり、意味も違ってくるので使わなくなった言葉を無理やり使用しようとは思わないが、「屋」のつくお店は基本的にNGとなると結構困る。「かっわいい、かっわいい魚屋さん」もダメじゃん。J-WAVEじゃかけないけどさ。
パチンコ屋もダメだね。パチンコ店か。八百屋は青果店か。
広告屋もダメなはずだが、私何度も使ってたね。あれは日銭を稼ぐ商売じゃないのと、もともとそんな言葉がなかったから良かったのかな。

確かにこの馬鹿、といいたくなる政治家を「政治屋」と侮蔑的に呼ぶことがあるので、「屋」には我々も潜在的に差別的な意味合いを感じているのかもしれません。
誠に難しゅうございます。

そんな話をした後で「床屋」の話だぜ。
床屋って何で床屋なんでしょうね。
昔は布団に寝ながら髪切ってた?なわけなくて、ちゃんと理由がある。
妙な話だがアジアのある国では床屋の奥に異性交遊の場が設けられているところがあるので、そういう場所に突撃された方は、だから日本でも同じことがあったんだよ、と勘違いしているかもしれないが、まるで違う。

一説には江戸時代の理髪店を「髪結い床」と呼んだことからとされているが、下関ではそうは伝えられていない。無理やりに下関をひっぱり出したのではなく、日本語WIKIにもそう解説してある。
実は数年前まで私もそんなことがあるなんて全く知らなかった。
何でもお国自慢をして喜ぶほど私も耄碌していない。
数年前から下関をちゃんと撮っておかなきゃ、と突然思いつき帰省するたびにバスに乗って歩き回っていた。そしたら唐戸でおかしなものを見つけちゃったのである。
こんなもん昔はなかったはずだ、とよく見ると平成7年に碑が立ったようで、あまり帰省していなかった時期のことだ。

そこには奥深い床屋の由来が書かれている。
時は鎌倉時代にまで遡るからただ事ではない。
当時亀山天皇に仕えていた京都御所北面の武士、藤原基晴君が宝刀の紛失の責任を取って辞職し、宝刀探索のため当時蒙古襲来で風雲急を告げていた下関に下ったんだそうである。
何で宝刀を探しに下関に来たのかさっぱりわからない。蒙古襲来と宝刀探しは関係ないでしょ。

で、藤原君は当時下関で髪結をしていた新羅人からその技術を学び武士を客とした髪結所を開いたというじゃないすか。宝刀はどうなっちゃったんだよ。しかも髪結になっちゃったのかよ。
クエスチョンマークだらけだが、ともあれその髪結所の床の間には亀山天皇と藤原家の先祖を祭る祭壇があったそうな。それを見て下関の人間は「床の間のある店」と呼び始め、転じて「床場」さらに「床屋」という屋号になったということである。全然江戸時代じゃないよ。歴史がひっくりかえるぜ。本当かよ、と下関出身者でも思う。

しかし、なんと基晴の三男、釆女之亮政之は床屋の商売の傍ら、ついに宝刀を探し出すのであった。
どこにあったかは書いていないんだよ。下関?なんで?
宝刀を見つけちゃったからには天皇にお戻ししなければ。鎌倉まで行って奉還しました。
そしたら「君うまいね」ということになり、髪結職として重用され、屋敷ももらって代々髪結職に精を出したそうである。江戸時代まで藤原家は栄えましたとさ。

ということで、ご納得いただけましたでしょうか。
私本人も、ウゲゲゲゲ、と思っているところもあるが、立派な碑が立ち、まだどこからもイチャモンをつけられてなさそうなので、本当の可能性もある。

ますます「床屋」に愛着が湧いちゃったよ。
この由来を信じるならば「床屋」に軽蔑的な意味合いはない。
むしろ鼻高々な名前じゃないの。
少なくとも下関では放送禁止にはできんだろう。
下関にもカモンFMというコミュニティFM局がある。
「COME ON」と「関門」が掛けられたナイスな名前。
今度、ここで思いっきり「床屋」を連発してやりたいが、出演させていただけますでしょうか。

これよ。

ちゃんと確認したい人は唐戸にある亀山八幡宮の階段下にあるから、いつでもどうぞ。