アフガン・シンポジウム

昨日は昼過ぎから、所用を全て撥ね退け極めて真面目なシンポジウムに行ってまいりました。
真面目に書かないと、主宰された現代イスラム研究センターの宮田先生に失礼なんで、今日は面白い事を期待しないで。大倉は実は隠れ真面目野郎でございます。

正式なタイトルは「現代アフガンにおけるメディア文化振興に関するシンポジウム」です。

私は学生の頃からアフガニスタンに非常に強く魅かれておりました。
60年代、70年代初頭まではバックパッカーが必ず訪れる聖地のような場所だったからです。
マリファナが簡単に手に入るということもあったようですが、アフガン人の人のよさ、美しい自然については数々の本で紹介されていて、インド、ネパールの次はアフガニスタンにと決めていましたが、70年代半ばあたりから国内が混乱し始め、私が大学生になった頃には渡航は控えたほうがよさそうな状況になっていました。
それでもアフガン入りした学生はいたようですが、当時そんな根性がなかった私は、「平和」になってから、と時期を待っていましたが、そんな平和は現在まで訪れることなく、とうとうこんなこんな歳になってしまいました。
ちなみに私よりも数年早く「深夜特急」の旅をされた沢木耕太郎さんもアフガニスタン入りを断念しています。

しかし、この状況でも大学時代同じゼミの超優等生だった宮田さんは、その後イスラム圏を活発に訪れながら行動する研究者として活躍されています。本物の研究者は自由な旅人でもあります。
最近でも彼は何度もパキスタンアフガニスタンを訪れていて、私が一時関わっていたニュース番組にもよく出演をお願いしていました。何か起こった時にだけ取材に飛ぶジャーナリストよりも日頃の生の状況を把握されている上、現地ネットワークも持っているので、宮田さんにお願いするのが一番でした。

さて、そのアフガン・シンポジウムですが、アフガニスタンからアフガン人のジャーナリスト、ソーシャルワーカー、研究者4人を招聘して催されたものです。
一般の人間が現在アフガニスタンで活動されている方々の話を聞ける機会はほとんどないので他の用事
をすっ飛ばしても参加するでしょう。

アフガニスタンのメディア状況、女性の権利、教育問題について詳しい発表があり、知らなかったことを一度に頭に入れてしまったので、簡単に整理してこれこれこんなお話でしたとここでお知らせすることができないのですが、いくつかこれは今後のアフガニスタンを考えていく上で欠かせない視点だと感じたことを備忘録のようなかたちで書きおいておきます。

ニューズ・ウィーク誌の記者であるサミ・ユースフザイ氏がメディア状況について語ってくれました。驚いたのは、現在カブールだけで30ものテレビ局あり、全国では170局にもなる、ラジオ局も175のFM局があり放送を続けているということでした。放送局の数にも驚いたのですが、問題はその内容です。政府によるものもありますが、いわゆる民放はアメリカ政府からの援助で作られているもの、イランからのもの、パキスタンからのもの、タリバーンのもの、アフガニスタン多民族国家ですからそれぞれの民族によるもの、と極めて政治色の強いものが多く、ひとつのチャンネルを見ているだけでは実際に何が起きたかを知ることは不可能で、数チャンネルをチェックして推測しなければならないということです。

私が強く懸念したのはいわゆる報道の中立性がほぼないに等しい状況で、アフガニスタン国民がナショナリズム(日本の右派政治家の言う「美しい国」のようなものではありません)確立できるのか、民族、政治的立場を超えてアフガン人としてまとまっていけるのかという根本的な問題です。
現在でも各民族はほぼ自治区域を持っているのが現状ですから、そこに政治色の強いメディアがプロパガンダ専門局として存在した場合、メディアの普及が逆に国というものを作り出すことを阻害してしまうのではないかという危惧を持たざるを得ません。
娯楽番組がないわけではないようですが、例えばドラマを上げるならアフガニスタンで制作されたものは皆無で、インド、トルコ、あるいはヨーロッパ、アメリカのものでアフガンアイデンティティ醸造できるものではないようです。

このアフガニスタンのメディアが抱える問題についてどのような支援が必要なのかという議論がありましたが、簡単に答えの出るものではありません。日本は放送機材の提供というハード面だけだ、ということでしたが、では何ができるのか、アメリカが行っているようにアメリカ的「民主主義」を喧伝することが本当に求められているのか。日本の「平和的」アニメ番組を無償提供するのか。イラン、パキスタンのように政治的、宗教的な「正義」を教え広めるのか。
現地を知らない私には議論を聞いていてもとても簡単には答えが出せません。
おそらくユースフザイ氏も絶対にこうするべきだという答えはまだ見出せていないのではないかという印象を受けました。

2014年にアメリカはアフガンから全面撤退します。
タリバーンは現在のところ一時期よりも影を薄くしていますが、撤退後どう動くのか、再び民族間でもつれた内戦に突入してしまうのか、国際社会はどのように関わっていくべきなのか、詳細に及んだ発表を聞いていると正直言って、混乱の続く現在の内政でそれを乗り越えられるのかが大変不安になってきます。60年代の静かなアフガニスタンを取り戻せるのか。いや、戻ってしまっては仕方がありません。新たな国として歩を進めることができるのか。

発表された方々の前向きな姿勢に感動しましたが、同時にその内側に大きな不安を抱えていることも察することができました。

宮田さんが最後に日本だけではなく、どの国の報道機関も何か大きなことがあると飛びついてホテルが取れないような騒ぎで報道するが、それが一旦収束してしまうとサーと引いてしまい、問題が起こった原因、その処方箋についてじっくり報道するようなことはない。絶対に忘れてしまってはいけない。常に関心を持ち続けることが必要だと話をされていましたが、まさにその通りで、日本の援助が現在も高い評価を受けている中で、何ができるのかを考え続けることが我々に課せられた義務だと認識を新たにした次第です。

で、私はどうすればいいのか現在熟考中です。