誰がシリアで化学兵器を使ったか

昨日、今週発売されたニューズウィークを読んでいたら、いきなり「弱腰オバマを笑うアサドの強気」というタイトルで「シリア政府軍が化学兵器を使用したことは既に明白なのに、何故アメリカは行動を起こさないのか」とこれは反政府勢力のプロパガンダかと思うような記事が長々掲載されていたので驚いた。
そのあとのコラムでバランスを取るような内容のことも書かれているのだが、基調は「政府軍が化学兵器を使用」である。

私はアサド政権に肩入れするわけではないが、どうもシリアの情報については確たる証拠のないものが「事実」として語られているような気がしてしょうがない。
もともとニューズウィークも「シリアではまともな取材活動ができないので、何一つ確実だと言えるような話はない」としていたはずなのに、いつから「確実な情報」が得られるようになったのだろう。

数ヶ月前までは反政府勢力は「自由シリア軍」を呼ばれていて、世俗派がアサド政権に挑んでいるという図式で語られていたのだが、今は「反政府勢力」である。自由シリア軍はもともと様々な勢力の寄せ集めであることは明らかだったが、「正義」は自由シリア軍にあるという前提で語られていた。
ところが「反政府勢力」という言葉に置き換えられた頃から、イスラム過激派、アルカイダ原理主義者が取って代わった、という記事が目につくようになってきていた。
いつから世俗派がいなくなったのかがわからない。
過激派に放逐されたのか。

アメリカ、イギリスが「政府軍が化学兵器を使用した疑惑が濃厚である」といきなりぶち上げ始めた。先月のことである。
シリア政府は「でたらめだ」と否定した。
その後、シリア情報相は「アメリカ、イギリスの派遣する調査団は受け入れられない。ロシア人専門家が加わるのであれば受け入れる用意がある」とも語っている。別に調査団を拒否しているわけではない。

また、これはほとんど報道されていないが、数日前には国連調査団のデルポンテ氏はBBC NEWSによればスイスのテレビ局のインタビューに答えて「反政府側がサリンを使用した強く、具体的な疑惑がある。これは近隣諸国での被害者、医者、野戦病院で調査してのことである。しかし、まだ、疑いようのない証拠とまでは言えない。また、政府軍が使用した可能性も否定しきれない」と話している。

間を置かず、アメリカ、イギリスは国連調査団の報告を頭から否定して、具体的な証拠なく、「アサド政権に責任がある」の一点張りである。聞く耳持たん、らしい。
確かに現段階では国連調査団はシリアに入国して調査をしているわけではないので、デルポンテ氏の言うように「明らかとは言えない」わけで、調査団を入れればいい。アメリカ、イギリスの専門家だけ構成するのではなくロシアの専門家も加えれば入国できる。

シリアで化学兵器が使われたら「一線を越えたと見なし、行動に移る」とオバマ大統領は宣言していたが、それを逆手に取って「ほれ、使ったぜ、やんだろ」とシリア攻撃がしたくてうずうずしている連中がニューズウィークに掲載されたような記事を書かせているのだろうけれど、どこで誰が使ったのか、本当に使ったのかがさっぱりわからない状態で「空爆だ」はないだろう。

イラク戦争前、素晴らしいでたらめ情報を捏造して世界中の人間に「イラク大量破壊兵器保有している」と納得させてしまった技を持っているアメリカだ。で、「間違えちゃったよ」と一応反省してみせたブッシュもいることだから相談してみてはいかがかな。

シリアで激しい戦闘が続いていることは事実である。
なんとかこの悲劇を終わらせねばならない。
化学兵器だけのことではない。
どの機関でもかまわない、政府軍、反政府軍ともに調停を受け入れることを切に願っている。