忙しい、と言わない

今年始めに亡くなった友人が「忙しい?と聞かれても絶対に忙しいとは言わない。いや、暇だと答える」とよく言っていた。
忙しいと答えてしまうと、ああ、こいつは忙しいやつなんだ、と頭の中にインプットされてしまって、なかなか連絡してこなくなる。聞ける話が聞けなくなるからだ、と教えてくれた。

暇なわけがない人だったんだけど、そうやっていつも人と会っていた。
でも、約束した時刻に遅れることは一度もなかったんで、どうやって時間を調整していたのかずっと謎のまま。
今でもわからない。

私はそれをまねて「忙しい」とは言わなくなったのだが、そうすると毎日午前様になってしまい、お医者様に怒られることとなったので、忙しいとは言わず、「ちょっとドタバタしている」と答えるようにした。

しかし、暇が通奏低音で暮らしている私が本格的に忙しくなってきた。
なぜなら21日から1ヶ月以上も出かけるからである。
仕事だったら、ああ、嫌だなあというフリをして、楽しんでくるんだけど、全然仕事じゃないんで、お金にならないからどれだけ金をかけずに回れるかの算段が難しい。それが忙しさの原因である。
行く場所に一貫性がないのも面倒のひとつで、まず、私はイギリスで1週間過ごします。これはただの感傷旅行で、友達に会えるから嬉しいな、と毎日散歩して、チャイナタウンでワンタンメン食って、夜、酒を飲んでとフラフラしていればいいので楽だな。

その後、強靭な母親と妹二人の4人で10日間スペインを回ります。
私には珍しく一人旅ではなく、観光案内人となります。
仕事でよく行っていたんだけど、仕事だからねえ、よくわかんないのよ。
それでいろいろ調べなきゃいけなくなった。
なんせもう15年くらい前のことなんで、よく行ったレストランが残っているかどうかもわからない。
なに観光すんだかわからないから、それも調べとかなきゃ。

そして、母親たちを日本に帰したら、どうしても行ってみたかったコーカサスに向かいます。
本当はアゼルバイジャングルジアアルメニアと3カ国を回りたかったんだけど、2週間しかないんでアルメニアがほとんどで、グルジアまで足を伸ばせるかどうかは行ってみないとわからない。
久しぶりにまるで初めての国に足を踏み入れるよ。
ワクワクする。
でも下調べがほとんどできていない。

ま、それでもそんな風に調子よくやっていればいいだけなんだけど、6月のフライトを、浮かれまくっていた私が7月で手配しちゃってたから、冷や汗がタラーリとたれてきて、イギリスまで電話かけまくり、メールをガンガン飛ばしてようやく昨日落ち着きを取り戻した。

やれやれあとは行くだけ、とのんびりしようと思ってたら、諸々必要なカメラ機材が整っていないことに気がつき、さらには
「お土産」というものについては記憶喪失状態だったことが判明した。仕事もあるじゃん。会合も入っている。本読まなきゃ、映画見なきゃ、と普通の方々には普通の事態が普通でない私にはなかなか普通ではない。

そんなわけで、日々何かに追われるような気分でいながら、どれもどうにかなるんじゃないかな、と構えているダメ人間の私である。
暇そうで、忙しいと思い込んでいる私である。

トレドにも連れて行かなきゃなんだけど、時間がねえ。