アンディ・マレー

20代の頃は毎週テニスを楽しんでいた(楽しむとうまいは違う)。
しかし、汗をびっしょりかいた私の頭を岸田が見て「おー!お前ハゲちょる!」と大喜びして以来、すっかりテニスが嫌になってしまい、徐々にフェイドアウトしてしまった。

テニスに限らずなのだが、私は人がスポーツをしているのを観戦して大感激ということがなかなかできない。
ミーハーなんで、遼君、藍ちゃん、イチロー、ダッッシュビルあたりまでは活躍すると何となく嬉しいんだけど、わざわざコースや球場に足を運ぼうとは思わない。
つまらん人間だ。
仕事であちこち世界的な大会に行かせていただいたが、「ふーん」くらいの感想しかない。
誠に申し訳ありません。

そういうわけでウィンブルドンにも行ったことがある。でも、いくつか試合を見たらだんだん面倒になってきて「じゃ、そろそろ」と帰ってきてしまっていた。

今年のウィンブルドンの男子シングルスでイギリス選手としては77年ぶりの優勝を果たしたアンディ・マレーのニュースを見ても「またオリンピックに続き、イギリス人大騒ぎだ」とシラーっとしていたのだが、昨日ニューズ・ウィークの記事を読んで驚いた。
多分、彼のこれまでの生い立ちについても書かれていたのだろうが、興味がなくて見過ごしていたんだと思う。

17年前、1996年、まだ私がイギリスにいた頃、スコットランドのダンブレーンで小学校の体育館に男が押し入り、銃を乱射し、5〜6歳の児童16人、教師一人を殺害するというイギリス史上最悪の事件が起こった。
イギリスでは当時は徐々に銃撃による殺人が報道されるようになっていたのだが、テロ以外では極めて稀なことだった。
あのときはすべてのマスコミが一斉に報道を始め、事件収束後も長く報道は続いていた。
テレビに自分の子供の身を案じて学校入り口に親が大勢詰めかけていた画像は今でも頭から消えない。
何よりも5〜6歳の児童16人が射殺されたという事実は自分の娘が2歳であったこともあり、大きな衝撃を受けた。
イギリスではアメリカで起こるような事件はあり得ないと思い込んでいたからだ。

マレーはその小学校に通う8歳の少年だった。
銃撃が起こった体育館に向かう途中で銃声を聞き、机の下に隠れていたという。
先月事件について初めて応じ「どれほどつらい体験か誰にもわからないだろう」と語ったという。

この記事を読んで不覚にも私は落涙してしまった。
事件が起きなくてもマレーは優勝していたはずだが、当時からテニスを始めていた彼がよくその悲劇を乗り越えたと別の感動を覚えた。
人口9000人のダンブレーンでは銃乱射事件後に寄せられた寄付金で建てられたコミュニティセンターに町民が集まり、試合を観戦し、優勝後には即席パレードが通りを練り歩いたそうである。

人はみんな誰にも語れないような思いを抱いて生きている。
ヒーローになろうがなるまいが生きるということはそれだけで価値がある。

イギリスの警官は通常時は拳銃を所持していない。
銃規制は極めて厳しい。