草食ネコ

朝起きてから、くしゃみが止まらないのでもみじ(猫)がまた噛み付きにやって来るんじゃないかとヒヤヒヤだったんだけど、今日に限って音沙汰がない。遠くで寝てても私のくしゃみには極めて敏感で、「テメー、コンニャロ!お前のくしゃみだけは許せん!」と襲って来るのにどうしちゃったんだろうか。心配だ。

もみじはもう9歳。おばさん。
でも森高千里くらいかわいい。みんなどうしてあんなままでいられるんだろうか。

しかし、食事が大変面倒になってきた。
私をガリガリ噛むくらいだから歯に問題があるわけじゃないんだけど、何が食べたいんだかわからない。
腹が減ったときだけ私のところにもやってきて、「ちょうだい、ちょうだい」と鳴くので、ホイホイ飛んでいって「もみじは今日は何食べる?」とやたら種類が多い餌の中から慎重に選んで、「お手頂戴」とお願いする。
出されたものに満足なときは黙って手を上げるんだけど、気に入らないときは私の手を噛みにくる。
私の手、腕、足はもみじとの共同生活の痕跡だらけである。
噛むのだけはやめてくんないかしら。
ちなみに噛まれるのは私だけで、家族には口も手も出さない。

もみじに猫用の草が買ってある。
食べたいときは寄って行って、首を横にして食べようとするんだが、そのあたりは生きるのに不器用なやつでうまくいかない。
私が白馬に乗って駆けつけて、一本一本口に持って行ってあげる。
するとうまいもんで、細い草の真ん中に噛み付いて、むしゃむしゃと一本綺麗に食べてしまう。
それを5本くらい食べると、満足して立ち去る。その場合は私は噛まれない。

時々、吐きたいときに食べるようで、10秒後には全身を波打たせて吐く。
これは悪いことではなく、体を綺麗にするときに毛まで飲み込んでしまうので、それを吐き出すための自然な行為らしい。
かいがいしく後始末をしてあげるがお礼はない。

吐かないときは純粋に草を食べたいから食べるようで、満足そうにしている。

私が下関に住んでいた頃、頭の悪いヨークシャーテリアのドンというやつがいた。
こいつはほうれん草を茹で始めると、どうかしちゃったのかしらというくらい、大喜びで飛び跳ねて、ちょうだいちょうだい、と絶叫していた。
人間様の食べるところはあげないんだけど、根っこのところをぶら下げていると面白いくらい高く飛び上がり、うまいこと咥えて一気に飲み込んでいた。味わかってなかったと思うんだけど。
それを繰り返していたら、風船を見ても絶叫するようになった。
風船は食わない。鼻で突く。バカなくせに下に落とさないよう真上に突いていつまでも飛び跳ねていた。
これは立派な芸の域に達していると思ったが、たまにお客様がいらしたときだけ特別にご覧いただいていた。
「へー」くらいの反応しかないんだけどね。

もみじにそんな才覚でもあれば面白いんだけど、何でも食うとすぐに寝てしまうんでね。
仕方ないよ。
猫だもん。

草を食べるもみじ。

寝るもみじ。