タイピスト!(Populaire)

こちらの映画、テレビ局がついているわけでもなく、大きな代理店がバックに納まっているわけでもないのにパブリシティがすごくて、確実にヒット作となるんでわざわざここで紹介しなくてもいいんだけど、一応背中を押しとこうかな、と。

試写は超満員。
ご覧になった皆さんは笑顔で部屋を出て行く。
普通、試写のあとは宣伝を担当している会社の方が、知ってる顔を見つけて「いかがでしたか」と聞いている光景が展開されるんだけど、この試写のあとは「どんなもんじゃい」って顔をして、やはり笑顔で見送っていた。
自信あるんだな、と思いましたよ。
文句なしに面白かったもん。

「現代のオードリー・ペップバーンの登場!」と激賞している海外誌もあるようだが、それはどうかな。
主人公の女性はかわいらしいんだけど、ペップバーンじゃないよ。
それを期待して行くと「金返せ」という人もいるかもしれない。
ペップバーンじゃありません。

「数多くの映画へのオマージュが満載」ってのもそうなんだろうけど、そんなもん気にしてたら映画に集中できないんで忘れてもらってかまいません。
ものすごく混むと思いますから事前にチケット買っとくとかしといた方がいいですよ。
そのくらい入ります。

映画についてはこれ以上言うことなし。

で、まあ、それじゃ、お前なに?ってことなんで思い出話を。

私はタイプライターを中学生の頃から使いこなしておりました。
英語で小説を書いてたんだよ。ってのは嘘丸わかりだからこれ以上追いかけない。
なぜ、そんなものを使い始めたかと申しますと、人から借りたビートルズのアルバムについている歌詞を写していたからであります。
当時はコピー機なんてどこにもなかったので、書き写すしかなかったんだけど、やっぱり活字みたいにして残しときたいじゃない。だから、タイプライター持ち出して一本指打法で始めました。
最初は時間がかかって、終わんのか?と不安になってたんだけど、慣れると一本指打法も結構いけるんです。
チャカチャカやってましたよ。
すると歌詞も自然に覚えるじゃん。
だから、高校に上がった頃にはビートルズで歌えない曲は無くなってたもん。
修学旅行の夜行列車で私の人間ビートルズ・ジュークボックスが数人の間で話題になり、夜遅くまでリクエストを受け付けてたのは懐かしい思いでだわん。

そうすると妹までタイプを打ちたがり、兄、妹でタイプライターの奪い合い。
上の妹は一歳しか違わないから、どっちが早いなんてことになるのよ。
両手打ちにも挑戦したんだけど、そんなの無理に決まってんじゃん。
そんなことを思ってたら、下の妹は私が大学に行くと高校でタイプライター部という奇妙な組織に属し、暗号を使いこなすようになった。英語が得意だって話は昔も今も聞いたことがないんだけど、やたらタイプを打つのは早かったらしい。何か役に立ったのかしら。

今では毎日PCに向かって朝からパチパチいわせている私だが、イギリスに行っていきなりタイプを使うことになった時は辛かったわ、とあたかも自分で打っていたように書いてみたが、よーく思い返してみれば、サマンサに頼んでいたんだった。キッタナイ字で下書きを書いて渡すと、ちゃんと英語になって戻ってきてたから不思議だよ。
自分でも何書いてんだかわかんない紙を見ながら、「なんで読めんの?」と聞くと「慣れた」とだけ答えてくれてました。アメリカ人も、イギリス人も手書きの字はゴミのように汚いからね。

イギリス人にもタイプの得意不得意があって、ある社員は私が慣れて両手で売っているのを見て「私より早い」と驚いてたのよ。
ということにしておきたいが、私の両手打ちはスーパーいい加減で今でも濃厚に一本指打法の痕跡を残している。右手ではまず薬指使わないもん。いちいちみんな見てないでしょ。これでいいのよ。
しかし、日本人がキーボードを使ってものを書くようになるとは夢にも思わなかったわ。

世の中変わりました。
変わる前のタイプの世界を是非この映画でお楽しみください。

ロンドン、カムデンタウン。
こちらもすっかり変わりました。