幸福な職場

本日の「ごちそうさん」。
め以子、頭が悪くても気にするな。自分でわかってないみたいだけど。

本題。
私がしばらく一緒に仕事をさせていただいた、きたむらけんじさんが作・演出の芝居です。
千秋楽に行って、絶対に観に行った方がいい、と申し上げるのは無責任きわまりないんですが、芝居を見ながら泣いてしまったのは初めてなので、どうしても行っていただきたい。
そのためには「今年は疲れてしまって、もう芝居はなし」と舐めたことを言っているきたむらけんじの根性を叩き直さなければならないので、「どうしても観たい」と声を上げていただきたく本日は今のところ上演の予定のない「幸福な職場」のことでございます。

実話をもとにしたお話。
川崎市にある日本理化学工業がモデル。
チョークメーカーとしてトップクラスのシェアを持つこの会社、全従業員の70%以上が知的障害を持った人たちです。
また泣けてきた。
内容については多くを語りませんが、どのような過程を経てそんなことができるようになったのかを丁寧に実直に描いてくれています。
50年前に知的障害者を初めて雇用した時のこと。

当時は私の父親は精神科のクリニックを開いた頃で、精神病に対する偏見はひどいもので、今のように「ノイローゼ」「鬱」「統合失調症(かつては精神分裂病)」などと口にするのもはばかられる時期です。
自宅に患者さんに住んでもらい、治療も行っていました。
キチガイ病院と呼ばれることはいつものことで、アホくさい、バカばっかだと思っていましたが、気分がいいわけはありません。
毎日、戦争でPTSDを発症した人が家の前を何やらよくわからないことを言いながら足を引きずり歩いていましたが、その身なりに非日常性を感じ取るバカガキ共は罵声を浴びせたり、ひどいときには石を投げていたことすらありました。

この芝居は知的障害者の社会参加がテーマなので違う話をしているのですが、障害を持たない人が「見るのも嫌だ」という隔離を進めていたのは同じようなことです。

娘をロンドンで得ましたが、40近くになって授かったので、障害が出る可能性も考えました。
自分で今も正しかったのか結論は出せませんが、羊水検査を行いました。
正直申し上げて、障害を持った子供を育てることができるのか、その覚悟があるのか自信がありませんでした。
医師から1%の可能性で障害の可能性がある、と告げられた時は気が動転し、1%とはどういう意味なのか、と正に意味のないことを問いつめました。
そのことを思い出しながら、芝居を見ていました。

きたむらさんの芝居は「べきだ」で作られたものではありません。
「おかしいじゃないか、声を上げよう。障害者雇用を促進すべく企業に働きかけよう」と息巻くような演出はありません。
非日常空間を最大限利用して役者を走り回らせたり、異次元を体験させたり、いきなり踊り出したりするような仕掛けもありません。
彼が考え抜いたことを丁寧に作り上げて行きます。

私だけでなく芝居が始まってすぐに涙を流している人がたくさんいました。
隣の方はずっとハンカチを握りしめて静かに瞼を拭っていました。

この「幸福な職場」は2009年に初演され翌年再演、そして今回と東京フェスティバル(きたむらさん一人の劇団)によって上演されていますが、いくつかの高校でも文化祭で演じられています。
そんな芝居です。

私が住んでいる場所には知的障害者のための施設が近くにあるので、30年以上前に引っ越してきた時からよくバスの車内で出会いました。
大きな声を上げる人もいて最初は驚いたりしましたが、今ではそんなことでびくびくするような乗客はいません。
当たり前のことではありますが、慣れるには少し時間がかかります。
ひどいことを言うようですが、初めて出会って驚くことはおかしなことではありません。
でも、彼らと日々接していれば、こうして一緒に生活をすることに違和感は全くなくなります。

いろいろなことを思い出しながら、泣きながらの90分間でした。
観たくなった方、全然本人の許可を取っていませんが下記のアドレスに「上演しないときたむらはハゲと言いふらす」とメールを送ってください。

http://www.tokyofestival.com

きたむらさんは私よりずっと若いのに、限りなく私と同じ頭なんですよ。
でも私より腹が出ています。
どうでもいいですね。