東京難民

本日の「ごちそうさん」。
何とも言えんわ。万歳がなかったのが救い。

本題。
この映画には、まず、あまりにもバカなんでもう相手にするのも嫌だ、という大学生が登場する。
こんな奴どうにもならないんだから、せめて泣きたくなるくらいの苦労くらいして根性叩き直せ、一度どん底に落ちろと真剣に思ったんだけど、だんだん、これは私でもあり得るとぞっとしてくる。
若者が本当の東京難民と化していく。
かすかな光が射したかと思えば絶望に引き戻される。

大学生と還暦間近のオッサンとはまるっきり条件も違うが、56年生きてきた中で重なるところがあることに気がつく。
主人公の学生をボロクソに言えるほどしっかりした生活を大学時代に送っていたか?
現在何の憂いもなく生きているのか?
小さなきっかけから転落してしまうことはないのか?

私は文字通り無職の期間が3度あった。
一度は40で会社を辞めて、どうにかなるだろう、と高をくくっていた時期。
これがかなり長い。
約1年半。
帰ってきたマンションはあまりにも狭くて、何か仕事ができる環境を作ろうと考え、小さな事務所を借りようと不動産屋に行ってみた。
まず職業を聞かれる。
「無職です」と答えた。
相手をしてくれていた若い担当者は顔を上げて笑いながらペンを投げた。
「あ、それじゃ部屋はありません」
「いや、もし家賃滞納を心配されているのであれば一年分前払いします」
「そんなんじゃなくて、無職の人には家主は部屋を貸さないんです」
「どうしてですか」
「理由とかじゃなくて、無職はダメなんです。どんな不動産屋に行っても同じですよ」
その場で切れて胸ぐらを掴むようなことはしなかったが、これからのことをするのに実績を出せと言われてもあるわけがないのに。「世の中」を甘く見ていた私がどうかしていたのか。
その時のやり場のない怒り、焦燥感は今でもどうしても忘れられない。
人間として扱われていない、と感じたから。
でも、この映画に比べればまだ笑い話程度のもの。

その分割り切れて、アジアを半年歩き回ることができた。
帰ってきてからも住む部屋はあったのでとんでもなく不便ではあったけど、寝る場所はあった。
図書館や自宅の食卓で当てのない原稿を書いていた時期。
それを2002年に本にして出した。
大声で叫び出したくなるくらい売れなかったんだけど。

43でまた無職になった。
根が暗いのか明るいのか自分でもわからないんだけど、まるで当てがないのに預金を崩しての生活。
いろいろあって、広告会社を作ることになったんだけど、今度は会社の口座が簡単に作れない。
金を貸してくれ、という話でもないのにクライアントは?これまでの仕事は?実績は?
ずっとロンドンにいて、その後、広告3年やってなかったんだからあるわけないじゃん。
「審査します」なんて言われちゃって。
しつこいけど口座を作りたかっただけ。

仕事が軌道に乗ると今度は最初全く相手にしてくれなかった銀行が「金を借りてくれ」と懇願に来る。
バカバカしくてケツを蹴り上げてお帰りいただいたが、くだらない連中だと心から軽蔑した。

そんな世界に生きているんだと思った。

この映画では一度「難民」となってしまった若者の生活のディテールがリアルに描かれている。
フィクションではあるけれど、この中での出来事はすべて事実として存在している。

先進7カ国、いわゆるG7の中で15歳から35歳の自殺率は日本が最も高い。

監督は「半落ち」「夕凪の町、桜の国」「ツレがうつになりまして。」等、多くの受賞作品を撮った佐々部清
私と同じ56歳。
同じ下関出身。
同郷だから勧めているわけではない。
まずは現実を知るところから。
本日公開。