新宿瑠璃光院白蓮華堂

身内を紹介する時、「我が社の社長様」はバカにする時はそれで正解なんだけど、本気で言ったら言った方がバカ。
家族の場合は「愚弟」「愚妻」が正しい。

ただ、私の妹たちの場合、それがうまく当たらないから困る。
何しろ私がこんな具合なもんで、私に「愚弟」「愚妹」とか言われると怒るだろうなあ、と普段から悩んでおります。
今日紹介しますのは正確には「愚義弟」「愚妹」なんですが、ちょっとはばかられるのでこの場だけ変えさせていただきます。
愚兄である私の賢妹は建築家、竹山聖の妻でありまして、竹山氏は賢義弟でございます。

昨日、新宿に彼らが設計しました瑠璃光院白蓮華堂の内覧会、敦煌莫高窟第220窟除幕式が行われました。
私はうまいことマスコミ関係とまるで嘘とは言い切れない立場を利用して、賢妹に潜り込ませていただいたのでございます。
ここのややこしい名前の建物は新宿南口から徒歩5分という非常に怪しげな、じゃなくて利便性の高い場所に立てられた白い華。
浄土真宗の寺院であります。

これが外から見ただけでちょっと息をのむ代物で、新宿という場所に浮いた白い蓮華の花。
雨だったせいで外観を撮れなかったのが残念なんだけど、人が撮った写真を載せるのは不本意なので見せてあげません。
コンクリート打ちっぱなしなんだけど、白コンクリートという特別なものを使用しているので、文字通り白いんです。
よくもまあ、こんなものをお造りなさった。
さぞや工費もかかったことだろう、とある記者が尋ねていましたが、お答えにはならなかったんでございますよ。
下世話な質問ですね。
私もすごく聞きたかった。

賢妹は愚兄をご住職や奥様、お嬢様、お友達に次々と紹介してくれるんですが、「私の兄でございます」とまでは嘘をつかずにすませているんだけど、途中でなんと紹介していいのかわからなくなってしまい、「まあ、生きる屍とでも申しましょうか」ともいえず「なんかいろいろやっているような、ないような」と口ごもる。
最初から「兄です」だけでいいのに。

このお寺はお墓の施設も建物内に内蔵されているんだけど、「建物の中の墓?」とか顔をしかめるようなものではなくて、「なるほどここなら、骨を納めさていただくか」と安心できそうな雰囲気を濃厚に漂わせていて、ガンジス川に流してもらう予定の私の骨も誰かと一緒にちょっとだけ入れていただこうかな、と相談もなしに決めかけている。

なぜそのような雰囲気なのかと申しますれば、ここは奏楽堂でもあり、美術館でもあるからでござる。

奏楽堂は80人程度が入れる小さなコンサートホールになっていて、ベーゼンドルファーのピアノも置いてあり、音響も響きすぎないようにいろいろと工夫がされており、是非私もバイオリンコンサートを開かせていただこうと考えています。
みんなが同じようなことを考えているようで、これからボチボチお決めになるとのことでございます。
歌舞音曲を好まれた目を見張るくらい立派な阿弥陀仏が見守ってくださっている。
ここでジョージア正教のポリフォニーを聞けたら阿弥陀仏もさぞお喜びになるのではないか、と勝手に思い込んでおります。

4階から6階に欠けて吹き抜けの「空の間」、別名鳩摩羅什三蔵法師記念堂がございます。
ここはどのように使うか、使い方を思いつきすぎて私には決められない。
もちろん私が決めるべきものではありません。
とにかく天井が高く、素晴らしい音響効果を備えていて、ここで声明なんかを聴くとインド哲学を勉強したといい加減なことを吹聴している私でもそれなりの境地に至れるのではなかろうか。
どうしますか?
フランスの環境音楽の権威、ピエール・マリエタン氏がこの空間のために作曲した「天と地の間に」が現在流れている。
それも甚く私の薄汚れた心の内を浄化してくれるようなものなんだけど、あらゆることが可能であり、またその名の通り、この大きな建築物の中心部に空を作り出している。
専門家の方々がいろいろ知恵をお出しになるんだろうけど、ここは私にお任せ願えないものだろうか。
世には音が溢れ、余計なものが多すぎるんだけど、どのような音も瞬間瞬間消えては現れるものでございます。
それを前提として何かやらせてもらえないかなあ。
ま、やらせてもらえないんだけど。

本堂の壁には敦煌莫高窟壁画が敦煌研究院の全面的協力を得て第220窟阿弥陀浄土図が原寸で再現されています。
これを見るだけでも、ここに来る価値がある。
数時間は過ごせるくらいその再現度は精緻を極めており、想いは遥か敦煌へ。

皆様、いかがでしょうか。
お気軽にお出かけになっては、とはいかなくて、これからも周辺の工事があったり、どのような形で一般の方に見ていただけるようにするのか未定だそうでございます。
建物だけは見れますけどね。

眼福でござった。
どこぞの阿呆どもに見せて心の浄化をさせてやりたかったけど、逆に汚されてもな。