落ちた女

以下の記事は事実に基づいて書かれていますが、当然のことながら「Inspired by the true story」という意味でありまして、すべてが本当かどうかは薮の中ということでお読みいただければ幸いです。
ただ、一報を聞いたとき、椅子から転げ落ちるくらい驚いたことは事実です。
新婚4年目(新婚とは言わない?)の根子(仮名)さんの告白。

不幸だったのか、幸運だったのかは今でもわからない。
普段からボーッとしている、とは言えない、と私は思っているんだけど、周りの人がどう見ているのかは知りません。
聞くのが恐い。

昨日の朝は典型的なブルーマンデーモーニング。
会社に行きたくないとかそういうことじゃないんだけど、とにかく月曜は毎週こんな感じ。
頭が回らないんです。
考えることが面倒な朝。
電車がくれば乗る。
降車駅で降りる。
また電車に乗る。
それだけのこと。
でも、今夜は日本酒にするか、ワインにするか、あるいはウォッカ、くらいのことは考えていたかも。

気がつくと、乗換で上野駅でいつものように人をかき分け銀座線のホームに立ち電車を待っていたことは覚えている。
電車が到着。
ドアが開き、人が押し出されてきて、乗込もうとしたときに突然私の前の景色が変わった。
ハゲオヤジの後頭部を眺めていたはずなのに、目の前には足しか見えない。
テレポーテーション?
ドッキリ?
頭の中は真っ白。
純白の乙女って本当はこういうことでしょ。

「人が落ちたぞ!」
「大丈夫か!」
と人ごとのような声だけが聞こえる。
何の話をしているんだろう、と思う間もなく、私のことだと気がついた。
ホントかしら、なんちゃって。
だって、足は宙に浮いてるんだもん。
意外にホームって高いところにあるのね。
恐いわ。
どこがホームと電車に挟まれていたのかはもう覚えてないの。
だって、電車が動いたら私死ぬでしょ。
すでに迷惑をかけている雰囲気が濃厚に私の頭の上に漂ってるんだから、なんとかこの状況を脱しないと。
必死よ、必死。
スカートだったんだけど、かまっちゃいられない。
パンツ丸見えだったかもしれないけど、自力でよじ登る私のたくましさ。
ようやく目が覚めた。

こういう時って誰も助けてくれないものよ。
形相変えて這い上がる私に感心していたからかもしれないけど。
昔から仕事で身体は鍛えているから力はあるの。
お酒も強いし。
ちゃんとホームに復帰しました。
しかし、駅員はどこよ。
そこにいるじゃん。
なんにも声をかけてくれないのは、ぜーんぜん平気、というふりをしていたかしら。
平気なわけないでしょ。
乙女が電車とホームの間に落ちたのよ。
胸ぐら掴んで、とやってしまうと恥をかくのは私じゃん。
腹立つけど、ここは黙って隠れておいた方がいいことくらいわかります。
だって、人妻の女の子だもん。
知らん顔して電車に乗って会社に行きましたのことよ。
突然の事故って、だんだん痛いところが出てくるものよ。
ああ、痛い。
軽い打撲みたいだけど痛いものは痛い。
でも、軽い打撲ですんでいる私ってどうなのかしら。
柔道やっていてよかったわ。
やってなかったかしら。

一番腹が立っているのは自分に対してだけど、あの上野駅の銀座線ホームは危ないって前から思っていたの。
そのくらい駅員わかってんじゃないの。
何人も落ちた人がいるんじゃないの。
いないの?
私だけ?
とにかく落ちた人間がここにいるんだから、危ないのよ。
改修工事やってよ。
次に落ちた人は死ぬかもしれないわよ。

両膝にできた青タンを見ているうちにますます怒りが増してきちゃったじゃない。
今日も落ちたらどうしようって心配で心配で。
心配していると落ちたりするものよ。
世の中そんなことなんだから。

無事を喜ぶべきか、不幸に同情すべきか微妙なところだけど、会社の同僚やFBのお友達に慰められて、少し幸せになったようなんで、よし、とすべきでしょう。
しかし、落ちるかね。
私は東京駅で階段から転げ落ちて足の骨が欠けたことがあるけど、ホームから落ちたことはないなあ。
どっちがボケか、これもまた微妙なところ。
これを読んだ当人が青タンの写真を送ってくれると完璧なんだけどな。