合唱部の私
小学生の時、私は合唱部に召集された。
クラスから先生が5人くらい歌がうまい連中を選び有無を言わさず引っ張っていった。それまで合唱部なんてなかったのに、思いつきで合唱部を作っちゃったのである。どうも下関で合唱コンクールがあるということで、どうしても出たくなったらしい。誰も頼んでないのに。
先日書きましたように、私は放送部もやっていたので、てんてこ舞い、なんてことはなく、大体放送部なんて毎日同じことしかやってないんだから、適当にやってればどうにかなった。
ただ、私の学校は3クラスしかなく、どう頑張っても足りない。仕方がないので近くの学校3校で取りまとめて1チームを無理やりこしらえた。日々の練習は各校でやって、何度か合わせる程度のいい加減な対応。と思っていたらこれが大間違いで、たまに合わせた時、他の学校の先生にあの学校はダメだね、と言われたくないからだとしか思えないようなスーパー特訓が始まった。
それまでは「わーれはうーみのこ、しーらみーのこー」てな感じで、合唱を本気でやる男は阿呆だと思っていたから、歌をちゃんと歌うということがどういうことなのかわかっていない。
「おーおー。女子が一杯おってえーのー」
選ばれなかった野郎どもの嫉妬と羨望を背に受けて、毎日、朝と授業後の練習である。朝30分くらい早く行って、いきなり歌を歌うかというと歌わない。まず軽く身体を動かすと腹筋。足を押さえられてキッツイ腹筋。
横になって足だけ10センチくらい上げて、「あー」と声を出す。
こんなことだと知っていれば、最初から逃げ出してたぜ、まったく。
腹筋で筋肉痛。小学校から体育会か。俺にはそういうの向いてないんだよ。
綺麗な女の先生だったんだけど、あんまり厳しいんで憧れるとかそんな感情は皆無でした。
歌を歌い始めるまでに、音階を「やははは、やははははー」じゃーん「やははは、やははははー」と延々繰り返しやらされる。
歌い始めると「隣の人のお腹に手を当てて、ちゃんと堅くなっているかどうか確かめて」と命令される。これ高校でやってたら問題でしょ。男が極端に少ないから女子と組むことが多くて、手を当てたり、耳をくっつけたりしてんだよ。こっちが恥ずかしくてしょうがない。
あれ見られてなくてよかった。町歩けなくなってたよ。
「ドミニク」とか歌ったね。タイトルは忘れたけど、やたらややこしい「公園のいっけはー、バレリーナのぶったいー」ってのもやった。いまだに歌えるから嫌になっちゃう。しかも主旋律じゃないからこんなんだよ、って聞かせてあげても、顔をしかめられるだけ。
それに一番問題だったのは、変声期前で少しずつ高い声が出せなくなってきていた。この間まで出ていた声が出ない。無理すると声が割れてしまう。中学校になってすぐに、普通に話していても、まともな声がしばらく出なくなったので、ギリギリのところだったんだろう。
ということで、とてもつらかったように思えるかもしれないが、実は結構楽しかった。自分が主旋律でなくても、いきなり音が合って強弱もピッタリだったりすると、体験したことのない高揚感があった。
あれを経験したことが、のちに中学校からバンドを組んだことにつながったのかもしれない。
3校の合同練習では、それは他校の女子生徒が気になる。普段顔を合わせていないと可愛く見える。他校の若い男の先生が「みんな、いいなと思う人にラブレター出せっちゃ」と教師にあるまじき発言をしたおかげで、一度手紙もらったな。誰からかが分からなかったが、確認しなくてよかった、と思う。
コンクールでは何年も合唱やっている学校の「ハレルヤ」に圧倒されて、意気消沈。わしらは話にならんと思い知った。
ちょっとした40年以上前のお話。
先日の「BOOK BAR」で中田永一の「くちびるに歌を」を紹介したとき、合唱部の話で杏さんと盛り上がったので、話せなかったおまけを書きました。
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