BSEと献血

カリフォルニアで新たにBSE感染牛が確認された。

私は90年から97年までロンドンにいて、93年か、94年にBSEが確認され、痙攣して倒れこんでしまう衝撃的な牛の映像を見るまでは、イギリスの牛は何でこんなに臭くてうまくないんだろうと文句をいいながらも、安いので食い続けていた。

下関育ちなもんで、肉より魚。ビフテキを食った記憶なんてない。
ビフテキってなんだけ?ビーフステーキのことですかね。
日本語っていいね。

下関で食った肉は豚コマの一番安いやつだったような気がする。

ロケでうまい肉のある地方に行った時、しゃぶしゃぶを食うにあたり、どうしても霜降り牛が一枚食ったらあぶらががすごくて、すぐに食べられなくなった。他のスタッフが「うまいうまい」と半分はあぶらの肉を貪り食っているのを横目で見つつ、私同様内臓が一番、次が豚肉、でなければ一切安い霜降りでない肉しか食う気のしないプロデューサーと二人で特別のお皿を用意してもらい、一番安くてさしが一切入っていない肉を頼み仲良く「やっぱりこっちだね」とおいしくいただいた。
あのあぶら肉の牛はどう考えてもメタボの病気でしょう。

元気に広い牧場を走り回って、充分な運動をしている牛にあんなに脂肪がつくはずがない。
「ああ、健康な肉の生命をいただいている」と牛に心からの感謝をしながら食っていたら、味音痴のコピーライターとアートディレクターが「大倉さんと原田さんは子供の頃、親に『ほら、これがおいしいお肉だよ』って教え込まれた貧乏な家の子だったんだよ」と親切に解説してくれた。

ボケ!
自然のありがたみを知らぬ身の程知らずどもが。
命ある生命を屠って、いただいているのである。余すところなく全身のお肉をいただくのが当たり前だろうが。霜降り牛ももちろん共に地球に生きる生命であるが、あれは人間が勝手にこっちがうまいと品種改良していき、行き着いたところがビールを飲ませ焼酎で身体をこすりまくり、大自然の中で自由に駆け回らせた牛ではない。
あのまま放っておけば、人間なら動脈硬化、あげくは大動脈破裂の生命に関わる重病患者になること必至である。

そんなの認めん。
アメリカに半年居て、自炊していた時、二日に一回はどえらく安い400グラムくらいはあるTボーンステーキにニンニクおろしを塗りたくり、塩と胡椒だけで味付けし、ミディアムレアで焼き、歯ごたえのある奴をガシガシ食うのが何よりの楽しみだった。
あれは89年のことだったんだけど、本当のとこあのころからBSEはあったんだろうか。
確かめようがない。

しかし、前述したようにロンドンで食ったステーキは、どうしても好きになれなかった。人によっては何も感じなかったというが、私はなぜ牛肉が羊の臭いをさせているんだろう、と頭をひねるばかりだった。

そしたらマッド・カウ・ディジーズの大騒動じゃない。
牛に羊の脳や骨を粉にした飼料を食わせてたってんだから、羊の臭いがしても全然不思議じゃない。
自分の味覚、嗅覚に感心したよ。
しかし、それを我慢しながら4年間も食い続けてたんだから、頭も悪い。

人がプリオンが含まれている肉を食うとクロイツフェルト・ヤコブ病にかかるという。BSEと同様、脳がスカスカになってしまい、普通の生活はとても望めない重病である。
潜伏期間は長いといわれ、数年で発病する人もいるようだが、20年、30年のこともあるらしい。
もう20年以上たった。まだ発症はしていないが、いつ出てもおかしくない。

というわけで、日本赤十字社のホームページにも献血車の注意書きにも
「英国に1980年から1996年まで、通算1ヶ月以上の滞在をしたことのある方はご遠慮願います」と書かれている。
女房はイギリスに行くまでよく献血をしていたそうなのだが、私の赴任のせいで献血できない人になってしまった。なんとなく申し訳ない。

何か事故があったとき、血を分けてもらうことはできても、献血はできない。
娘に何かがあってもダメだ。

騒ぎのあと、一切牛肉を口にしなくなったが、ある日、食通の友人がすごいことを教えてくれた。
ホランドパークという高級住宅地にある肉屋の牛肉は、病気の元となる飼料を全く与えられておらず、BSEの例はないという。

半ば疑いながら、試しに食べてみたら、天地驚愕の驚きであった。
全然味が違う。もちろん羊の臭いは皆無。霜降りなんかではないが、その赤身の肉のうまいことと言ったら例えようがない。様々な部位を食べてみたが、どれも唸るほどうまかった。
肉のうまさの表現は苦手なんだよな。貧乏で食ったことなかったから。
でも、自然から贈られてきたものをいただいている実感があった。
すごく高かったんだけど。

なぜ、ここだけ?と思うでしょ。
その店は王室御用達で、あの方々はおかしなものを食わされた牛は口にしたことがなかったようだ。
さすがイギリス。そのあたりの線引きははっきりしている。

さて、最初のニュースに戻るとカリフォルニアの一頭にBSEが確認されたとあったが、どう考えても同じ場所で育った牛は同じものを食べていたとしか思えない。「一頭以外はすべて安全」と主張するだろうが、そんなあなた、今、日本人はいろんなことがあって政府への信頼をなくしているのよ。

オバマ大統領が大丈夫だといいました」と保障されても信用しないと思いますよ。
その牛周辺の情報すべてを開示してくれないと、きっと日本人は食いませんよ。
心しといてくださいな。

インドのこの牛はもちろん食べられることはないのだが、もし食ったらどんな味がするんだろうと想像したことはある。