鼻笛

ガキのころようやく口笛が吹けるようになって、嬉しさ爆発、一日中メロディーになってないただのピーピーいう音の発信源となっていた。あれはとても不愉快でうるさい。
父親から基本的には「うるさい」、夜だと「泥棒が来るからやめろ」とつまり口笛禁止令を出された。
そんなことするから中学生の時からバンド始めて、自宅でガンガン大音量を出す子になったんじゃん。

口笛くらい吹かせてやればいい。うちの娘は口笛が苦手でスカスカさせていた。
しかし、小学生の頃はリコーダーの練習をやっていた。リコーダーの音は猫のもみじが嫌いでよく喧嘩してたっけなあ、という気がするが、もしかしたら私の創作かも知れない。

少し前の日経に鼻笛ミュージシャンというと不思議に聞こえるが、鼻笛を大変得意とされているミュージシャン、モスリンさんが「郷愁の音色ご一緒に」という記事を書かれていた。顔をおかしな形のマイクに貼り付けるようにして、ギターを弾いているモスリンさんの写真がとても印象的。

私の興味は最初は鼻笛の音より、そのけったいな演奏風景とモスリンというどこから引っ張ってきたか見当もつかないお名前に魅了されてしまった。ヴァン・モリスンが好きで好きでモスリンにしたのかな?とか、カオリンというふざけた名前をつけているバーの経営者もいるので、「もすお」とかいう本名なのかな?とずーっと悩んでいた。
しかし、ご本人がモスリンの名前については言及されていないので、これ以上いらぬ詮索はしないことにした。

それにしても、鼻笛とはいかに。
口笛のように鼻の穴をキューとすぼめて、自由自在に音を出すのか?人間の限界を超えている。そんなことが自由にできるんだったら、俺もやってみてー、と急に気になり始めた。で、よーく記事を読んでみると鼻の穴をチューの形にするのではなく、小さなふたつ穴が開いているだけの楽器だということがわかった。ちょっと残念。でも、この形状では、まあ、「咲いた、咲いた、チューリップの花が」程度が精一杯でしかも音も不安定なんだろうと高をくくりつつも、ユーチューブでチェックしてみたらぶっ飛んだね。

すごいよ、これは。
柔らかくやさしい音を縦横無尽に繰り出すわ、複雑なメロディのトルコ行進曲を全身を使って見事に吹きこなしている。これはフルートだ。しかも身体性を頂点まで極めつつも、極端に安く購入可能な「誰でもフルート」だ。
どこでこんなシンプルかつ思想性を備えた楽器が作られたのかは諸説あるらしいが、モスリンさんによれば「アマゾンの密林に暮らすインディオが神との交信に使ったという説が有力」だそうだ。
さもありなん。
そうだよ。それに違いない。それにしましょう。

解説によると上の穴に鼻から息を吹き込み、それが下の穴を通って口に入る。口の形状、舌の位置を変え、音程を調節するらしい。と書いてももうひとつ演奏の仕方が飲み込めない。

モスリンさん、もともとお勤めされながら、ライブハウスでも活動されていたそうだが、今はこの鼻笛とともにあちこちに演奏旅行されている。驚くことに鼻笛を始めて吹いたのはわずか5年前だそうな。56歳の時。今の私とほとんど同じ。それでこんなすごいことになっている。

荷物にもならないから、バックパック担いで歩くとき、鼻笛で毎日の宿代くらい捻出できるんじゃなかろうか。動機はかなり不純だが、吹きたい気持ちに変わりはない。

とにかくすごいよ。
まず聞いてみて、今日は日曜だから上司いないでしょ。思いっきり音出して聞いてみて。

で、これはもう悶絶もん。

私はもうアマゾンで購入したよ。もうすぐ届くでしょ。