ネパールがまた荒れてます

2008年から憲法制定のために作られた制憲議会が任期満了で解散になり、また総選挙。

私が前回ネパールを訪れたのは2008年1月。
2年に及ぶ荒れた民主化運動や地方農村を中心に活発に活動していたマオイスト毛沢東主義者)と政府軍の度重なる激しい戦闘がようやく落ち着き、で、これからどうするという時期だった。

2001年に起きた王宮内皇室虐殺事件について強い疑いが持たれていた当時のギャネンドラ国王はすでにそのころは力を失いつつあり、友人たちの目はその先に向いていた。
と言っても、メラメラと国を変えるぞという炎が目の中に見えたわけでもなく、毎日何とか食えればいいんだけど、という印象。これは友人がやる気が無いとかいう問題ではなくて、いわゆるインドと同じアウトカースト、不可蝕民ではできることなど限られている、といった諦め半分だったような気がする。

2008年当時のブームはアラブへの出稼ぎで、クエートだ、カタールだ、と数年前ならガラガラだった空港が、若者で埋め尽くされ、このうちどのくらいイラクに騙されて連れて行かれるんだろうと見ていてズーンと気分が重くなった。

国内にはこれといった産業がなく、観光で食っていたのに様々な騒ぎで観光客が減り、来ているのは中国、韓国の弾丸観光ツアーの方々で私が1週間くらいはだらだらする町を数時間で駆け抜けていくので、金にはなりはしない。

子供の間で異様に流行っていたのが「教科書を買う金が無い」詐欺である。
ボーっとしていると、2人組みの子供が「お金が無いんで、教科書が買えない。学校にも行けない。教科書代をもらえないか」と痛いところをついてくる金の無心である。
最初に寄って来られた時は「そうか、なにを勉強しているの?いくらかかるの?ちゃんと学校行くの?」と座り込んで話を聞いていたのだが、話が途中から破綻してきて「とにかく金をくれ、そうじゃなかったら、タンカ(仏教画)を習っているんだけど、今展覧会やっているから、見に来てよ」とよれてしまう。

長年この手の話には慣れているので途中から「そういうことなのか」とすべて読めてしまうが、彼らの生活を知っているので、悲しくなるばかり。

「教科書代はあげられないけど、展覧会に行こうか」と言うと大喜び。喜ばれても困る。ただの客引きなのはわかっているので、とにかく連れてきたという実績だけでも雇い主が評価してくれるといいなということだけなんだから、「何も買わないよ」と一応断っておく。
それでも、実物を見ると買う客もいるのだろう。「展覧会だから、もちろん買わなくていいよ」とニコニコ顔で答えてくれる。

当然展覧会なわけがなく、確かにタンカの教室もやっている様子なのだが、メインは最後に通される
「倉庫」である。倉庫が店になっている。そこからは子供の出る幕はなく、校長兼店主が次から次へ広げる絵を眺めているだけ。

私はタンカはいくつも持っていて、かなり目が肥えている。ちょっと細かいところを見るだけで技術の良し悪しはすぐにわかってしまう。
残念ながら欲しくなるものはないし、金もない。
「どうも案内ありがとう」と言って立ち去る時に、罵声を浴びせないのがネパール人のいいところなんだが、そんな子供たちがそこいら中を何組もうろついていて、全く同じことを話し始めるのにはやはり閉口してしまう。

暇そうなガイドの兄ちゃんに彼らのことを尋ねると、「They are killing us.」と忌々しげにののしるが、みんながみんなの事情を知っているので、大人と子供の喧嘩になったりはしない。

初めての旅行者がインドからネパールに入ると、「ほっと全身の緊張が緩む」のだが、それも何度も行っているともどかしくなってしまうことがある。がむしゃらな努力、意欲がどこか抜けている印象が強くなってくるのである。それが好きでネパールに何度も行っているので自分でも矛盾していることはわかっているのだが、「どうにかしようぜ」と叫びたくなる。

ネパール援助のNPOは日本には数え切れないほどあるのだが、学校を作るものが多い。とてもいいことだと思うのだが、私の親しい貧しい連中は学校があっても、行かせる金が無いという。自分も2年間だけ行ったことがあるとか言われると、言葉につまってしまう。
地方に行くと学校を作っても、仕事の手が足りなくなるので行かせられない、ということも起きる。
きっと何らかの手が打たれてきていると推測するが、もともと小規模の農業と観光産業以外これといったものが無い国なので、大きく変わるきっかけを探すのは難しい。

政治家はやたらと議論好きだが、毎度毎度組閣がうまく行かない、マオイストが新しい条件を出した、汚職疑惑がある、てなことで、日本のように首相がコロコロ替わる。

で、今回の「また選挙」事態になっている。
4年間憲法を作る目的で作られた議会で何も決められなかった。

数日前カトマンズで大規模なデモがあり負傷者が多数出た。
ロイターの写真が公開されていた。

http://jp.reuters.com/news/pictures/rpSlideshows?articleId=JPRTR32GTC#a=1

写真には私が場所が特定できるものがたくさんある。
変わらないことを喜びつつ、同時に失望もしてしまう。

この子供たちは余裕を持って学校に行けている。