一人旅で注意すること

20歳の女子大学生がブカレスト空港近くで殺害されたという報道に接して、普段から一人旅を勧めている私はかなりショックを受けている。

今回はルーマニアブカレストでの事件という、あまり女子大学生との接点が見出しにくい場所なので、報道では「何故」という論調が多い。
事実関係が明らかになっていない中、憶測で物を語ることは避けたいが、確かに旅慣れている私でも不可解だと感じる点が多い。様々な国に行ってボランティア活動に近いインターンシップを体験されている方も多いはずなので、単純にルーマニアは危険だという気はないが、普段からルーマニアブカレストはかなり評判が悪い。それは当然知っていたと思うが、どうして夜に到着し、それから電車で深夜移動をするような行程を組んだのかが理解できない。

日本の会社の紹介でルーマニアに行くことになったようだが、誰がこの行程を組んだのか、何故空港に迎えに来ていないのか。どのような契約だったのか全くわからないので誰を責める気もないのだが、20歳という若さを考えると、そういう場所での旅に慣れているとは考えにくいので、運が悪かったという以上に不備であるという印象が強い。

世界中を一人で何年も旅を続ける若い女性は実はかなり多い。
安宿に留まるとノートが置いてあり、たわいもない旅の出来事を宿泊客が書き込んでいることが多い。そういうものを読むと危険だといわれている地域も女性一人で軽々と突破してきている。
しかし、ここで注意していただかなければならないのは、そういう方々はかなり危険に対する認知に優れていて、ここから先は危ないと自分で判断ができる人たちということである。

と、そうは言っても、女性に限らず、一人でも安全と言われている場所でも、旅行者が殺害されるケースはたびたび耳にする。日本人が殺害されれば、大きく報道され、「危険だ」ということになるが、外国人旅行者の場合はほとんどニュースにならないので、危険性を判断しにくい。

私が好きで何度も訪れている国では、女性が肌を見せることはまれで、例えばノースリーブ、短パンで歩くことがすでに現地の男性を強く刺激していたり、宗教的に許せないと悪意を抱かせる原因になることもある。その国では日本人を含め何人かの女性が殺害されいる。
私が深夜歩いていて何の危険な信号もキャッチできなくても、対象になる人よっては危険な状態に変わることもある。

男性よりも女性のほうが一般的には危険に晒されることが多いのは残念ながら事実だが、ある親日国で私が滞在していた時に、真冬に外のベンチで強い睡眠薬の入ったジュースを勧められ、そのまま亡くなってしまった若い男性もいた。

ここで一人旅は危険だと言ってしまう気にはならないが、まず、自分が訪れる場所がどんなところで、どんな危険なことがありうるのかは調べておくことは必要であろう。イメージで「危ない」と思い込んでホテルから一歩も出ないということになってしまう人もいる。それは極端だろうと私は思ってしまうが、一人旅の場合は自分で身を守ることが絶対条件なので、それぞれの方の判断でここから先に「行く」「行かない」は決めるしかない。

80年代、ロサンゼルスで夜、女性だけで歩いて移動するのは自殺行為だと怒っていた日本人コーディネーターの方がいらっしゃった。今もそうかもしれないが、確かに当時は危険極まりないことだった。ホノルルでさえひとつ暗い道に入ってしまうと、金品を奪われるような事件はよく起こっていた。

私は自分だけは大丈夫というほど自信家ではない。
一人旅をするということは、例えば駅でトイレに行きたくなった時には荷物も一緒に持ち込まなければならないという不自由さから逃れることはできない。しかし、多分それ以上に自分が気がつかなくても危険を察知することは自然にしているはずである。

私のような格好をして歩いている人間を襲っても何にも持っていないと思って、近づいて来ないだけかもしれないが、それなりに気を使っているのである。

無闇に「一人旅は避けろ」、「安宿は危険」、「屋台の食事は危ない」では旅の醍醐味をすべて奪ってしまうので、そういうアドバイスは避けたいが、是非自分の基準を徐々に作っていき、どんどん世界を見てきて欲しいと願います。

奇しくもほぼ時を同じくして、ジャーナリストの山本美香さんがシリアで戦闘に巻き込まれ亡くなった。充分に危険察知能力を身につけている方にもそのようなことは起こる。戦闘地域で取材をされていたので、ある意味の覚悟はお持ちだったはずだが、残念でならない。

亡くなった女子大生の方と山本美香さんのご冥福を心よりお祈りします。