山に登れない その1

10年以上前、朝のラジオ番組を担当していた時、番組が始まる前によく身体をほぐしていた。
不思議なもんで緊張して筋肉がこわばっていると声が出なくなる。小さくなるんですね。お腹から出なくなる。なので、局に着くと朝4時から誰もいない玄関ホールで大声で「あいうえおあお」と繰り返し叫んでいた。

直前には簡単な運動をして、温泉で買った肩揉み棒で全身を突っつき、アップ。最後は高見盛みたいにほっぺたを両手で2回張ります。走り高跳びの選手みたいな感じ。そうすると噛み癖までは治らないんだけど、声だけは何とか出るようになる。
皆さんもラジオパーソナリティになったときにはやってみて。本当に効果があるから。信じてくれないとダメだけど。

あと、大きなプレゼンテーションの前もお勧めだな。
緊張して声が出ない。何を言っているんだかわからなくなる。そういうことあるでしょ。私は何度もありました。ああいう時も事前に身体動かしとけばよかった。今気がついた。
「プレゼンは勢い」という場合もあるんだよ。そうでない場合も多いけどさ。

そんなことで番組は始まるんだけど、じっとマイクの前に3時間も座ってられないんで、曲の合間にまた少しだけ屈伸運動とかをやる。気合入れて足を折ったり伸ばしたり、ってやっていた時に初めて気がついたんだけど、膝が痛い。
「あれ、こんなことなかったんだけどな」
どうしてだろうとひとつ年下のディレクターに疑問をぶつけてみた。
「ねえ、膝痛くない?」
流行り病じゃないんだから、私が痛いからって同じスタジオにいる人間まで痛くなるわけないじゃん。
聞いた後で、「おかしなこと聞いちゃったな」と反省したのだが、そのディレクターは何言ってんの、と言う顔をして「痛くないっすよ」と答える。

そうか私だけか、でそのときはすんだのだけど、いつ頃からだろう、40半ば、いや後半くらいから、歩いている時に急に膝が痛くなって、しばらく揉んでいないと痛みが治まらなくなってきた。そのうち信号が赤に変わる前に走ることを止めている自分に気がついた。何故だろう。膝が痛いからだ。

これはまずいだろう。もう爺さんかよ。
プールで水中歩行だな、と勝手に自分で判断して、ひたすら歩き回ったのだが、治まる気配なし。

その状態で会社を解散した50歳の時にインドに行った。
デリーからまず北に向かい、リシュケシまでバスを乗り継いでたどり着いた。
朝、5時くらいでリキシャもほんのわずか、ケチなので町の中心部まで歩き始めたのだが、当時はフィルムを大量にバックパックに詰め込んでいる上、冷え込む場所もあったので荷物が多くなっていた。
すごく重い。その上カメラバッグがずっしり肩に食い込む。
中心部までせいぜい5分とふんでいたのだが、20分歩いてもそんな様子の場所は見えてこない。

朝、しっかり歩くと、お腹が主張し始める。
何か食わせてくれ、じゃなくて、早く出してくれ、だ。普段から朝食はとらないのでお腹は減らないんだよ。重いものを担いでいると腹に力を入れるので、余計にまずい状態になる。
でも、頑張りました、ということにはならない。
道を外れて、バッグを置いて用を足すことにした。
その時にも「あれ、こんな時に膝が痛い」と頭を抱えたね。膝が痛いと思うようにしゃがめない。
人が見てたらおかしなことしてるな、と思ったはずだ。
しかし、そんなことはどうにでもなるもんで、しっかりお腹を軽くした。

おめー何書いてんだよ。と気分を悪くされた方もいらっしゃるだろうが、野グソなんて当たり前だよ。よく海外に出かける若い女性の方も先日「バスが休憩で止まったら、すぐに茂みと葉っぱ探しますよね」とおっしゃっていた。「そうそう」と答えたが、私は葉っぱじゃないんだよ。紙を切らさないようにしているんです。嘘ついてごめんなさい。
汚れた紙のほうがずっと汚いと思う文化もあるので、皆さんも気をつけてくださいね。

主題から大きくずれたが、そんなこともあって、膝がまずいことになっていることに気がついた。
宿を見つけて「イテテテテ」と膝をもんだが、1時間弱も無理して歩いたので痛みが引かない。
参ったね。しかし、ここはリシュケシ、ヨーガの都だ。誰かがどうにかしてくれるんじゃないかと期待したが、ヨーガ道場に行く気なんかサラサラない。私が探したのはアーユルヴェーダのマッサージである。
これがあるある。そこいらじゅうマッサージ屋だらけ。
さすが本場、なんだかどうか、ヨーガとアーユルヴェーダ、全く無関係ってことはないはずだが、そんなことだっけな、と?を頭にくっつけながらおじさんと青年の間のような男性のやっている客が一人しか取れない小屋に入った。

ここまでで、こんなに長くなってしまった。
申し訳ない。明日に続きます。

リシュケシにはサルが多い。
膝なんか痛くないんだろうな、と眺めていた。