エディ・パルミエリと母親

昨晩は脳天爆発、狂乱の宴であった。

エディ・パルミエリが来るもんで早々にチケットを購入していたのだが、誰も一緒に行く人間がいない。淋しい男だ。ああ淋しい。誰と行こうと悩んでいたら、ひらめいた。私には母親がいた。
別にマザコンじゃないすよ。普通に母親がいるということを言っているだけです。
この母親、最近マージャン、ビリヤード、社交ダンスと完全に不良老人化しており、もっと心躍るような体験をさせないとうまく育たない、と悩んでいた。

だからひらめいたのである。
ラテンの帝王のステージを見せて、最近私が推し進めようとしている「書を捨てよ街に出よう」運動の唱道者に仕立て上げよう、と思いついたのである。

しかし、ラテンだしな、どうだろう。電話をしてみたらまずブルーノートという言葉に反応した。
「名前はよく聞くねえ。行ってみようかね」ということで商談成立じゃなくて、私が奢るんだった。

エディ・パルミエリは30年近く前、私に何のラテンの知識もない時のジャケ買いにより、私の心臓を貫いたニューヨーク・ラテン界、いやいや世界に君臨する帝王、王様である。どうしてそのCDを買ったかと言うと、見も蓋もない、どうじゃ、というデザインに引っ張られたからである。
どうかね、このジャケット、CDだけどさ。これだ。
と、アマゾンからジャケ写を引っ張ってこようとしたらないじゃん。仕方ないから写真を撮りました。

鳴らしてみたら、あんまりびっくりしてカップヌードル落としそうになった。
いきなりこれかよ。
知らないことは恐怖だ。
これ知らないまま死んでいたら、生霊となる。

日本ではお金がなかったこともあり、これ以上買いあさらなかったのだが、ロンドンに行くとどっさりサルサのコーナーに並んでいたので、全部買った。他のCDもわけわからずにずいぶん買った。名前も知らないのに。ラテンのコーナーにはずいぶん貢献したよ。
帰国後、エル・カミナンテに教えを授かり、様々なラテンに親しんできました。もうズブズブだ。

自由席なので早く行かないといい席確保できないんで5時半前に母親と二人待合に陣取って7番という素晴らしい整理番号をいただき、こりゃ、母親の耳にはいかがなものかというステージのセンターから1メートルの席に落ち着いてしまった。
座わっちゃったものは仕方がない。
7時の開演までワイン飲みながら、母親と女子会ノリでペチャクチャおしゃべり。なんかこのブログに書かれている自分のことについて怒っていたような気もするが、全て聞き流した。

ほぼ7時ちょうどにステージは暴発した。
興奮して亡くなった方もいるんじゃないか。
母親は倒れてないか、と気を使ってみたら、目を爛々と輝かせて5歳年下のエディを見つめている。違ったかなメインボーカルのでかいお兄さんかな。吸収の早い老人である。
私はもう心の中ではキャーキャー奇声を上げる女子高生状態。
母親のことすっかり忘れて脳天から宇宙へ向けてビームを発し続けていた。誰かに届いたかな。
このステージ見てりゃ竹島だ、独島だ、尖閣列島だ、釣魚島だ、石破だ、安倍だ、町村だ、橋下だ、野田だ、細野だなんてこと全然関係ねーよ、ということになる。月曜までやっているから誰か石原パパ連れてきてくんねーかな。目を覚ましてやんないとまずいよ。

いやもう大変な体験。
ニューヨークの小さな小屋でタワー・オブ・パワー見たときもぶっ飛んだけど、こちらはもうやばすぎる。
店を出ても興奮が醒めないので、よく行く秋田料理屋さんで母親に飯を奢らせることにした。
「うん、面白かった」と面白そうに言っていたので本当に面白かったんだと思う。あの世代は感情表現がうまくないので察してあげないといかん。

ワインを飲みながらちょろちょろつまんでいたので、お腹はそんなに減っていない、というのでお任せより少々少なめでお願いしたのだが、相変わらずうまいものをたくさん出してくれる。お腹が減っていないというわりには、出されたものは速攻で空にし、日本酒を飲み始めた。
通常は鍋で締めるのだが、「鍋までは食べられん」というから他のものをいただいていたのだが、「締めはどうするかねえ」と言い始めたので、もう一度きりたんぽ鍋の説明をすると「じゃ、それ食べよう」ということになる。

「あんたよく食うねえ」
「なんでもおいしい、太った」
とおっしゃる。
コンサートの興奮かもしれないが、健啖家である。

母親の母親は昨年100歳で他界したので、この人は120くらいまで生きるんじゃないかと思っていたが、140まで伸びそうな勢いである。
私は先に行っているんで、エディ・パルミエリで精力をつけて、あとからゆっくり来ればいい、と感じいった晩だった。

私が生きているうちにラオスにでも行かないか、と打診してみたが、「行かん」ということであった。

その後、私は一杯だけのつもりで寄ったバーで轟沈してしまった。