ネパールでバス転落

10日の夜、西部山間部を走るバスが道路から100メートル下の河原に転落し、乗客ら28人が死亡、11人が負傷するという事故があった。事故原因は不明と書いてある。
事故原因は不明じゃない。

ネパールの都市と都市を結ぶ交通は飛行機かバスに限られている。
飛行機は高い。だからバスを使う人が圧倒的に多い。
私もよく利用した。
バスがぼろいのは特に気になるところではない。動きゃいいんだ。
ひるむのは道である。

大昔、初めてのネパールでカトマンズからポカラへ移動するのにバスを利用した。旅行者も一般のネパール人も同乗する。それもなんということもない。カトマンズ盆地を出ると山道になる。地図を見てもらえばわかるが、ネパールは南部以外は山の中である。山を切り崩して道が作られている。中国の協力を得て作られたものであると、ドーンと看板が掛かっている。

ネパールはインドとの結びつきが非常に強い国だが、中国とも国境を接している。チベット自治区です。そんなこともあり、決して関係はよくないインドと中国がインフラ整備やなんかでネパールに便宜を図っていたのであろう。大国にはさまれた小国のありがたいところでもあり、迷惑に思うところでもある。中国が「道路作っちゃうよ」ってなことをもちかけたのだろう。道路がないと山を歩いて越えなきゃいけないんだから、「ありがとう」としか言えない。
道はできていた。一車線半くらいのが。当時の中国はまだまだ貧しくて、よその国を支援できるような状況じゃなかったはずなんだけど、無理をしてもやると判断する理由があったんでしょう。
だから、「こりゃたまげた」という道路はできない。

舗装、とんでもない。山道だけどガードレールなんかあるわけがない。何しろカトマンズからポカラまでずーっと山道なんだから、ガードレールなんかつけていたらいくらお金があっても足りません。

バスは乗りごごちなんか本当にどうでもいいの。
無事に着いてくれれば。全身緊張させているんですごく疲れるんだけど。
対向車がない状態でも、崖から転落数センチとしか座席からは見えないギリギリのところを走っている。それでも運転手がなれていて、こんなもんなんでもないよ、だったらいい。本人はもしかしたらそう思っている可能性もある。しかしだ、いつ落ちたのかわからないようなバスの残骸を時々見かけるのである。100メートルくらの崖下に。

いちいち「ウヒョー」「やめてー」と叫ぶわけにもいかないので、できるだけ外を見ずに寝ていこうと努力するのだが、そんな状況でぐっすり寝られたら100点だ。私は100点なんか取ったことはない。「落ちたら落ちたときのこと」と割り切って、気持ちよく過ごせりゃ私も大物になっていたんだろうが、やはり小物は小物だ。それくらいの人間だ。

であるから、10日のバス事故の原因は不明じゃない。真っ暗な狭い、ガードレールのない道を車のライトだけで進むのは神業に近い。だからドライバーには神に近い人がたくさんいるんだろう。このバスのドライバーはたまたまその日は調子が悪かったのか。
今後も私がネパールでバスを利用しないということはありえないので、かなり身にしみた事故のニュースだった。
亡くなった方には心よりご冥福をお祈りするが、よく11人も負傷ですんだと驚いている。
夜だったので屋根にいた人間がいなかったということではないかと思う。
通常、昼間の込み合う時間では屋根の上にもぎっしり人が乗っているので、もっと大きな惨事になっていたはずである。

30年間以上、ネパールの道路がちゃんと整備されますように、と祈っていた。
もうそろそろ本気で何とかしましょう。
ちゃんと議会がまともに運営されますように。

ネパール中部と南部を隔てるマハーバーラタ山脈。さすがにここはバスじゃ越えないと思うんだけど、と調べてみたらやはり無理やり越えていくルートはなさそうである。少し安心した。