大井町ディープ

私はインドやネパール、カンボジアラオスと決めると自分でも驚くくらいあっという間にチケットを手配して、ビザを取って飛んでいくのだが、日本にいるときは激しい出不精で、仕事で仕方なく出かける、映画や試写に這って行く、飲みに誘われたり誘ったりして深夜の町をふらつく以外では、基本的にじっとり自宅で本を読んだり、していることが多い。ちょっと事実と違うか。ほとんど毎日出かけるのだが、積極的ではないというくらいが正しいか。

わかりやすくいえば、知らないところに出かけるのが面倒だ、ということである。
きっと面白いものがたくさんあるんだろうな、出かけてみようかな、という気分になることもあるんだけど、結局グダグダして「ああ、ゴロゴロが一番」ということになる。
なんか、超忙しい芸能人のお休みの日みたいでしょ。全然立場が違うのにどういうことかしら。

死んだ父親が私の歳くらいから外に飲みに行かなくなり、来客も嫌うようになった。
あんなにメチャクチャで「家庭的」という言葉には縁がないような人間だったのに。でも、どういうことだったのか一度も理由を聞いたことがなかった
ついに父親の人嫌いの血が体の中で暴れ始めたのか、と一瞬怖くなったが、一度外に出てしまうと楽しくなって、極めて人付き合いがいい私である。
まだまだいけるかもしれない。

で、昨日写真の校正で大井町に出かけることになった。大井町ははじめて降りる駅である。蒲田にはほとんど毎日通ったことがあるのだが、蒲田に行くから大井町にも行くということにはならない。
ご縁がなかったのね。失敗した。
9時半位に仕事が終わって、目眩がするほど腹が減っていたので、とにかくどこかで飯を、ということになり、「アトレにあるじゃん」とお伺いを立てると「アトレにうまいもんなんかあるわけないじゃないすか」と20歳も年下の女性アートディレクターに怒られた。
知らねーんだよ。この町は。

駅の向こう側がにぎやかで色々あります、と連れて行かれた。
本当だった。
こんな町だったの。知ってたら蒲田から毎日通ってたぜ。
30年前のアジアの空気があらゆる路地に漂っている。
飲み屋が軒を連ねる中にたこ焼き屋があって、そこに座り込んで酒を飲んだりもしてる。
「ここがいいんじゃないかなあ」
とお誘いしてみたら
「たこ焼き食うわけないでしょう」とまた一蹴されてしまった。
今度来る時はタコ焼き屋にしよう。誰を誘うかだ。誰も来ないような気がする。

かつてのゴールデン街のような狭い路地にさらに怪しげな雰囲気の漂う、間口の狭い飲み屋。
ああ、もう好きにして、この空気に溶けてしまいそうだ。
それでも、路地から路地へさ迷い歩いていたら、中華飲み屋が。
メニューを覗き込んでいたら、中国人のおじさんがドアを開けて、ほらほらと中に案内してくれた。
小さい。テーブルは2卓、あとはカウンター。スッゲーいい感じじゃん。

本格的にメニューを探ると生ビール200円、他の料理はピータンから野菜炒めから焼きビーフンから海老チャーハンまで全て360円。そんな料金のつけ方ってあんのかよ。
計算するのが面倒だからかしら。あんまり腹が減っていたんで、ガツガツ食って、ビール飲んで、紹興酒をコップでもらい、もう食えん、とお腹をぽっこり出してお勘定を頼んだら、6000円しなかった。これが大井町の相場なのだろうか。ちなみに料理はどれも文句の付けようがないくらいおいしい。もう少し値段のつけ方考えたほうがいいように思いますが。

大井町で仕事をしている方々、住んでいる皆さん、お幸せですね。
これからはちょくちょく寄らせてもらいたいなあ。
問題は慣れるまで、どこに何があるかわからないことだな。
昨日行った中華の店にも人を連れて行ける気がしない。
それから、理由も欲しいな。
アートディレクターのお兄さんが大井町設計事務所をやっていらっしゃるので、そこから仕事をいただくということかな。掃除番とか。中村さん、何とかお願いします。

この写真では雰囲気が伝わらない。
ないよりはましか。