雪苺娘と桃小町

私は甘いものが苦手で、ほんの少しでも甘みを感知すると食べられなくなる。
砂糖が入っている、いないに関わらずだ。
つまり、サツマイモ、カボチャは論外。ものによってはレンコンも嫌だ。果物もいつの頃からか口にしなくなった。
お誕生日ケーキも遠慮させてもらう。
もらったことないけど、バレンタインデーのチョコレートももらうのが嬉しいだけで、きっと誰かにあげちゃう。試したいから、今度のバレンタインに渡してみてはいかがでしょう。

まだまだあるな、タレものが苦手。
タレって甘いでしょ。だから基本的に焼き鳥は全て塩にしてもらう。焼肉屋でもタレ厳禁。天丼、カツ丼、親子丼、ああいうのも砂糖抜きってのはできないもんでしょうか。
出汁巻き玉子大好き。どんな居酒屋でも必ず頼みたくなる。しかし、こいつは店ごとに砂糖入り、抜きと作り方が異なる。あれは誰が決めてんだろう。店主の趣味?
だから、必ずお店の人に聞かなければならない。

「あのー、ここの出汁巻き玉子は甘いですか」
「いや、そんなに甘くないです」
「そんなにってことは、少し甘いってこと?」
「少しだけ甘いと思います」
この場合は私には耐えられないくらい甘い。

「あのー、ここの出汁巻き玉子は甘いですか」
「いえ、うちのは一切砂糖使っていません」
大変おいしくいただく。

「あのー、ここの出汁巻き玉子は甘いですか」
「はい、砂糖が入っています」
「砂糖抜きってできますか。甘くなくしてもらうってことなんですが」
「ちょっと聞いてきます」
ワクワクする。
「できるそうです」
大変おいしい。
できません、って所もあります。
味にこだわりがあるのかな。

前にも書いたが、私は中性脂肪の値が薬を飲んでないと自分も医者もびっくりするくらい高くなる。
遺伝のせいらしいので、仕方ないのだが、最初は医者が信用してくれない。

「大倉さん、甘いものは控えてくださいね」
「私甘いものは一切口にしないんですが」
この「一切」っていうのが嘘くさいらしい。
「ふふふ、まあそういうことにしといてもいいんですが、控えてね」
「いや、ほんとに甘いもの食べませんし、間食全くしません」
「へー」
「へー、じゃなくて本当に食わねーんだよ」
「まあ、じゃ、そういうことで」
「信じてないでしょ」
「信じますよ」
「いや信じてない。目が笑ってる」
「あー、食べない食べない。大倉さんは甘いもの食べない」
「てめー、舐めてんじゃねーぞ」
と取っ組み合いになるようなことはないが、このたぐいの会話が必ず繰り返される。
自分が甘いものが好きな人間は、甘いものが苦手という患者の心が読めないらしい。
仕事で喉がイガイガして声が出にくい時だけはのど飴を舐めるくらいかな。

しかしなー、実はひとつだけ例外があることを昨日まで忘れていた。
2、3年に一度くらい食べたくなるものがあった。
雪苺娘。これで「ゆきいちご」と読みます。

初めて食べたのは番組の取材で東京都青梅市の沢井に行ったときのことだ。
澤乃井という酒蔵があって、川が流れているとてもいいところ。そこで食べるうどんは到達感も加わり、唸るほどうまい。酒もすすむ。
しかし、沢井はとにかく遠い。乗り継ぎが多く、待ち時間がありすぎでだらだらしちゃった時に駅の売店雪苺娘を見つけた。白くてふんわりしたいでたちが美しくて、苺って書いてあるから、なんとなく大丈夫なんじゃないかとつい購入してしまった。かぶりついた瞬間に溶けた。全身から力が抜けるようなおいしさ。
真ん中に苺が入っていて、その周りを少しだけスポンジで包み、その外側は生クリームだ。甘さは本当に控えめ。包んである皮はお餅をやわらかくしたような不思議な食感。
甘いものもしかしたら大好きなん?と勘違いしそうになったが、好きなのはこれだけ。

以来数年に一度これを買って食べる。
数年に一度しか食べたくならないともいうか。
以前はどこのJRの駅でも買えたように思うが、最近は減ったらしい。
JR以外でも同じ名前の雪苺娘という見た目もそっくりなものを売っているようだけど、どうも味が違うような気がする。そっちのほうは私の舌が受け付けない。
気のせいだろうか。

昨日、友人が写真展を見に来てくれるというので、私も有楽町に出かけた。
しばらく話をした後、突然5年ぶりくらいに雪苺娘が食べたくなって「ちょっと買い物があるから」とこそっと一人おかしなところで分かれて、雪苺娘を買いに走った。そしたら桃小町というこれも思わず頬ずりしたくなるようなカワイコちゃんが隣にいたのでそれも購入。

夕食後にいただいたら絶品だわ。
こんな子達も世の中にはいるんだね。

写真を撮ったんだけど、何故かアンダーだ。写真展やってんのに恥ずかしい。
もう一度撮りたいが、食べちゃったんで無理。興奮しておかしなことしちゃったのかしら。