エアーポテト

ポテトのふりをしているだけの物体のことだと思うでしょ。
違います。
この芋、恐ろしいことに呼び名が5つもある。もうなにがなんだか。

エアーポテト、珍芋、宇宙いも、隕石芋、そしてムカゴ。
要するに山芋のつるにできるむかごのことでございます。土の中で育つんじゃなくて、まさに空中で大きくなるんでエアーポテトなんでございます。
なのになぜこんな珍妙な名前がついているのかと申しますと、その大きさにある。
何しろ巨大。普通むかごって直径せいぜい1センチくらいのもんで、それをあぶってちょっと醤油につけて食べると、「ああ、おいしいね」と喜べるものでございます。

かつて下関の私の実家は釜炊きの五右衛門風呂で、毎日風呂を炊くのが私の仕事であった。なんやかんやの上に薪をくべるのだが、この火を見ていると毎日の嫌なことが全てどこかへ消えて行ってくれるのがモティヴェイション。少し危ない奴だった。
昼間山に入って、なかなか見つからないむかごを手に入れたときは、もう早く風呂を炊きたくて。
針金にとって来たむかごを串状に突き刺して、火であぶる。醤油をふってもう一度焼き、ハフハフ食べる。時々真っ赤に焼けた針金が唇に当たって火傷する。それでもひるまない。うまいから。
多分ですね、食卓に出されてもそんなにうまいとは思わなかったはずなんだけど、ま、そんなもんですよ。

先日のむつみ村ドンチャン騒ぎの旅の際に道の駅に立ち寄った時、「なんじゃ、これは」というものを見つけた。世にも珍妙な形状の石のようなもの。
「キャー何なのこれは」
「むかごよ、むかご」
「何でこんなになってるの」
「よくわからないんだけど、こんなに大きくなるんだって」
かよちゃんがササッと袋を掴んで買ってくれた。
帰りに持たせてくれたんだけど、どう調理していいものか悩んで昨日まで放っておいた。
心配で心配で。イモも長く放っておくとしなびてくるじゃないすか、もう食えなくなるんじゃないかと私がとろろ汁にして食べることにした。

ラベルには「たんぷら、とろろ汁やお好み焼きに如何ですか」と書いてあったがたんぷらという食い物は知らないのでとろろ汁にしました。

まず形状から見ていただこう。これ。

どうよ。4つ入っていたんだけど、同じ種類の芋とは思えないほど変幻自在に姿を変えている。ふたつ摩り下ろした後なんで全部をお見せできないのが残念。
皮を剥く時に驚いたんだけど、1ヵ月近く放っておいたのに、いささかの衰えも見えない。皮のしたから出てくるのはみずみずしい色をしたきれいなお芋ちゃん。う〜ん、青臭い。どんだけもつんでしょうか。山芋なんで激しくぬめって誠に扱いづらい。

下ろしていくと白くて綺麗だった芋が端から茶色へと色を変えていく。空気に触れると一瞬で色を変える。馬鹿でかくはないが持ちにくい、ヌルヌルであることで大変苦労する。

これが下ろしたもの。

すでに茶色に変身を遂げている。
この芋の粘りが半端ではない。団子状で固まっている。
それではよくわからないんで、少し垂らしてみた。

クー、たまんなくないすか。これに出し汁を足してグルグルかき混ぜてツルツルっとすする。ごはんの上にかけてもいい。出し汁をそろりそろりと加えてかき混ぜるとますます色の変化が激しい。もう真っ茶色。遠くから見たら引き割り納豆だ。
一口すすってみた。うげげげげげ、青くさーい。これは色々工夫が必要だな。出し汁を増やして、青海苔を加え、醤油をドボドボ入れてみた。もはやなんなんだかわからなくなってしまった。
で、また一口。
おっ、これで大丈夫。

落ち着いたところで重労働の後のビール。
で、また一口。
げげげげげ、また青臭くなっちゃってるよ。
これは焼いたほうがいいんじゃないか。
焼いてみた。
ところがこの芋、なかなか固まらない。
何度も焼き具合をチェックするんだけど、とろろのまんま火にかけられている。熱くないらしい。
他のものを食っているうちに焼いているのを忘れていた。
あっ、ヤバイと慌ててフライパンを見るとちょうど良い加減になっている。
どこまでも頑丈な芋だ。

おー、あれだけ焼いたのに中はとろみがちゃんと残っているぜ。ワイルドだろぉ。
まるでもんじゃ焼きである。

そういうわけでお好み焼きのようなものになって私の胃に収まった。
問題は残るふたつの巨大エアーポテトを今度はどう食うかである。
何かいい知恵はないだろうか。