インドで列車に乗る

「インドでキャバクラ始めました(笑)」を紹介したら、あっという間にあのサイトの「いいね!」が2万を超えたので、「俺のおかげなんじゃないの、菓子折りのひとつでも」と構えていたんだけど、「あ〜、これ話題になってる〜」という連中が続々出てきて、どうも菓子折りを待っていても無駄だということがわかってきました。
漫画家かつ主人公の沼津さんはおそらくニューデリーの日本人ビジネスマンが多く住むかなりいいところにお店兼自宅を構えているようで、あんまり外に出て行ってディープなインドを体験してない様子。
今度インドに行ったら私がお連れしよう、と計画を立てていますが、考えてみればとっくに日本に帰ってきてるんじゃなかろうか。
つまらんね。

インドでは不愉快なことも含みながらも面白いことが次々に起こるので、いちいちびっくりしていると身が持ちません。
最近ではそんなに驚くこともなくなったんだけど。
私が最初に行った1977年くらいには、そんなに今と変わっていないと言えば変わっていないんだけど、変わったところもあって「今は楽になったなあ、こんなこと知らんだろう。ふふふ」となぜ笑うのかわからないけど、やっぱり「ふふふ」ってやりたくなっちゃうね。
今でもそういうとこあるみたいだけど、インドに行くと、どんだけ金使わずに厳しい旅を続けているか合戦みたいなことになって、「俺の宿のベッドなんか南京虫だらけで人型にベッドが凹んでんだぜ」「俺んとこなんかすげートイレでどうしていいかわかんねーぜ」「俺んとこは壁が天井までないんで隣の音丸聞こえで、全然寝られねーよ」とかやり合います。
全部私自分で体験したことであります。

もう56なんで自慢したりはしませんが、今でもそんなことがあります。
決して望んでそうなるわけではありません。

初めてのインドでヴァーラーナーシー(バナーラス)からガヤまで列車で移動することになりまして、いつ来るかわからない列車をひたすら信じたホームで待ちわびる私。
2等車なのになぜかすべて指定席で、ある意味厳密な国だなあ、絶対座れるじゃん、と信じた私がバカなのよ〜。
数時間待った末、列車がホームに入ってくる。
これだこれだ、車両はどこだ。
いざとなると慌てるもんだぜ。
だってさ、乗降口で乗る客と降りる客がものすごい揉み合いになっているんだもん。
ゼロの概念を生んだ国、インド。
その合理的精神は実生活では全く生かされることはない。
あのさ、降りる人間を降ろさないと、乗れないんだけど、わかってる?
という私の無言の警告にも関わらず、延々と押し合いは続いている。
もしかしてただのバカか?
それを見てかなりひるんでいる私が目にしたものは、窓を利用しているチョー頭のいい方々。
乗降口なんか使う必要ないじゃん。
列車に乗れればいいんだからすべての窓は出入り口になるんだよ。
とは言いつつ、自分で窓にしがみつくのもなかなかできないことなのよ。
荷物もあるし。
インド人の皆さんは誰がいようが、ガンガン荷物を窓から放り込んでいるけど、大丈夫ですか?

少し騒ぎが落ち着いてきたところで、私は自分の座席指定券を握りしめ、人をかき分けズンズン進む。
ようやく見つけたぜ、待たせたな、俺の座席ちゃん。
3人がけの木のベンチ椅子にはすでに5人の方々がキツキツで小さくなっている。
なるほどな。
そういうことか。
みんなが急いでいた理由がやっとわかった。
「おい、君たちその席は私が予約した席だ。どきたまえ」
たかが弱冠20歳のヒゲもまともに生えていない私の言うことなど聞くはずもない。
ハゲててヒゲモジャの今ならかなり言うこと聞くんだけどな。
チケットを見せて、「ほれほれほれ」と促すと、席を立つ人間は皆無でさらに詰め始めた。
10センチくらいの隙間を作って「はい」だって。
あ〜、ここでは議論は無駄なのね。
座れるわけもない隙間。
哲学的な差異だな。

私は上を見上げて星空に願った、はずもないんだけどそこに光明を見いだした。
そこには荷台があった。
余裕あり。
インド人は荷台に荷物を置くより足下に荷物を置くことを好むようだわ。
その瞬間の私の行動は俊敏の一語につきる。
バックパックを放り上げ、私も荷台で横になった。
居心地がいいわけないんだけど、座席で誰かの膝の上に座っているよりましだもん。
インド人の皆さんは「ああ、よかった」と一息ついていらっしゃる。
揉め事なく収めるところに収める。
東洋の心だよ。

ガヤに着いた時は身体が痛くて、多少の難儀はしましたが、ま、こんなもんだ。

流れがあるんで、明日もインド、列車の旅をお届けします。
お相手は大倉眞一郎でした。

こんなところがヴァーラーナーシー。
現在はバナーラスと呼ばれていることになっているんだけど、駅の名前は今でもヴァーラーナーシー。

昨日、FB友達にインドで列車の荷台に乗ったことがあると書いたら「尊敬する」とコメントをいただいたので、いきさつを綴ってみました。