インドで列車に乗る 続き

本日の「ごちそうさん」。
怒った希子ちゃんが可愛い。

本題。
タイトルがまずいかな。
「続き」ってのはどうなんだろう。
初めてインドに行ってから何度もかの地を訪れていた私だけど、50歳で会社を清算して再び流浪の民となりブラーリブラーリうろついていた。
20歳と50歳の旅は違うよ。
持っている金は同じなんだけど。
ハゲている。
ひげがモジャモジャの上、真っ白。
英語もうまくなっているぜ。
そこはあんまり関係なかったりすることも多いんだけど。
インド人は多くの方が英語を話すんだけど、いわゆるインド英語で聞き取れないことが多かったり、私のクイーンズイングリッッシュだと流暢すぎて「へっ?」という顔をされることもあり、そのせいかどうかわからないけど、いつの間にか私まで見事なインド英語の話し手になっている。
rをすごい巻き舌で発音したり、「アチャ」とか相づちを入れてみたり、「はい」の時に顎を横に振ってみたり。
恐ろしい順応性を持った生き物だ、と自分でも驚くよ。
まったく。

ともあれ、私は若い頃のように腹を立てることもなく、「オーラオラー、誰がそんなこと言った」と凄むと道理が通るということを学んだからだ。
正しい生き方をしているんでしょうか。

50歳でインドをひと月弱廻ったあと、私はバナーラス(ヴァーラーナーシー)で1週間ダラダラとガンジス河を眺めて過ごした。
退屈しないから不思議。
バナーラス最大の祭り、大掛かりなプージャを見た後、おもむろにバックパックを担いでカメラバッグを抱え、リキシャで駅まで向かう私である。
事前に宿のあんちゃんに頼んでここ一番、ニューデリー駅まで特急寝台を取ってくれや、と頼んでいた。
お願いするのが遅くて1等寝台になったんだけど、30年前よりはましだ。
寝台にインド人が3人すでにキューキューになって寝ていたら、今度は絶対に蹴り落とす、と腹に力を入れて構内に入場。

列車は来ない。
来る気配がない。
仕方ないんだけどな。
いつ来るか誰もわからないというのは少し心が折れるよ。
ホームが表示されたんで、「それっ!」と走り出しホームに陣取るが、そこにはただ風が吹いているだけ。
待っている人はたくさんいるんだけどな。
あんまり来ないもんだから、若いお嬢さん二人に声をかけてみた。
「ここはデリー行きの列車のホームだよね」
「そうだと思うんだけど」
「ねー、そうだよね、そんでどこから来たの?」
「イギリス」
すかさずインド英語をクイーンズイングリッシュに切り替えた。
「私もロンドンに長いこと住んでいたのであります」
「あら、そう」
「いつ列車は来ますでしょうかね」
「ふふん」と両手を上げる。
「わかりませぬな。待ちましょう」
ハゲとの会話には興味なさそうだったんだけど、それなりに打ち解けましたわ。
こういう出会いは旅の最中欠かせないね。

いきなり列車が来た。
どの車両だ。
その辺りはすぐに判断がつくので走った。
私達が待っていた場所は指定車両から一番離れていた。
お嬢さんたちもどういうわけか同じ方向に全力で駆けている。
君たち本当に同じ方向でいいの?
ようやく車両を見つけて乗り込んだ。
寝台はすでに準備されていて、今度はちゃんと薄っぺらい布団が敷いてある。
インド人のオジサンも横になっていない。
と、そこにあのお嬢さんたちが二人。
私が上段、お嬢さんたちが中段、下段。
こんなことってある?
旅を繰り返している私だが、女神が微笑んだことなんて初めてのこと。
ガンガの神のお導きか、モテモテのクリシュナが私に化身したかだ。

荷物を足下に置いて、体勢を整えて。
「ハーイ」
「あら、同じとこなのね」
「思っていたより、寝台いいよね」
なんちゃって、これからの道行きを夢想する私。
と、そこへ私の腕を乱暴につつく野郎が。
なんだよ、この若造の汚ねえ西洋人は。
「そこ俺の寝台だぜ」
「バカ言うな。俺はチケット持ってんだよ」
「俺も持ってんだよ」
お互いのチケットを出して比べてみると、確かに同じ寝台番号。
しかーし、私は気がついた。
「オメーのチケット昨日のじゃんかよ。おととい来い、じゃなくて、昨日来い」
「え〜、宿にちゃんと頼んどいたのに〜」
「知らね〜よ。ちゃんとチェックしなかったお前がバカだろう」
「どうしよう」
「降りなさい」
「降りねえ」
「俺は知らねーぞ」
アクセントでアメリカ人とわかったが、あいつらは絶対に自分の主張を通そうとするから、ほとんどインド人と同じ感覚で接しないといけません。

車掌が来てチケットをチェックするんだけど、昨日のチケットでも無理矢理降ろさないのがインドのいいところかな。
私としては絶対に降りて欲しかったんだけど。
案の定、バカアメリカ人は私のイギリス人お嬢さんたちに張り付いて動かない。
俺がそういうことをやろうと思ってたんだよ。
上段っていうのは隔絶された場所で、話をするには上から頭を垂れるしかなく、とんでもなくおかしな格好となる。
要は覗きと同じですよ。
私は連中が仲良さそうにくだらん話をしているのをただ黙って聞くしかない。
あー、つまんね。
その上、アメリカ野郎は通路の腰掛けじゃなくて寝台の下の床に陣取り寝てしまったぜ。
荷物もその辺りにかためているので、私の寝台には床がない。
オシッコに行くのにも踏んづけないように尋常じゃない苦労をする。
腹が立って寝られない。
何に腹を立てているんだろう。
お嬢さんを横取りされたからか。
本当は私のものでもなかったんだけど。

寝られぬままニューデリー駅に着きました。
そのまま安宿が集中しているパハール・ガンジへ歩く私。
疲れてて寝たいんだよ。
なのに、どこも満室だってよ。
顔なじみの宿で、嘘つくな、部屋あるだろう、地獄に堕ちるぞ、とたわいのないやり取りの末、2晩確保。

インドの列車の旅には必ず何かおまけがついてくる。
外れなしです。
できるだけ安い2等車がお勧めかな。

これはミャンマーの列車の線路。
ほとんど列車が来ないんで、道の役目を果たしてます。