タコはプルポ

最近ここはだめだろうな、と思っていたレストランがスペイン料理の店に変わっていることが多くて、いつから日本にはそんなにスペイン人が増えたんだろうと悩んでいる。

私はロンドンにいた時期にマドリッドに出張することが非常に多く、昼疲れ果て、夜当時はお得意様だった皆様、エージェンシーの仲間と食事に行くことが多かった。スペインで不味いものを探すことは至難の業なんだけど、うまいものはそこいら中に転がってはいないけど、どんなバルに入っても、レストランに行っても、うまいもの以外食べたことがなかった。
皆さん大倉が来たからと特にうまいものを食わせてくれておりました。

高いといっても日本のような値段を取られることはなく、どこでも安心して食べられるのよ。

ただ、ちゃんとしたレストランだとバルで出すようなちょいちょいと作っていながら、あらま、というくらいおいしいものは置いていないんざます。ああいうものはカウンターでセルベッサ(ビール)を飲みながらおやつのように食うもので、フォークとナイフで食べるものではない、ということなんでしょう。

私は無類のタコ好きで、どんな店に入ってもタコが食べたいんだけど、どこでもは食えない。
「大倉さん、なに食う」と聞かれて「タコ食いましょう」とはなかなか言えないもの。
タコ食うときは昼食のときにチャチャッと済ませるときに、こっそりタコを食べておりました。
当時のタコは日本のタコブツのように歯ごたえがあるものではなく、棒でガンガン叩いて繊維を切ってから調理するんでおいしいんだけど、歯ごたえがないのが残念なことだったのよ。

今回ロンドンからスペインに渡って、誰に遠慮することもなく毎日タコを食いました。タコはスペイン語ではプルポと申します。タコだけは音の感触からするとプルポの方がピッタリ来るなあ。だからすぐに覚えた。pulpoと書いてあると腹が減ってなくても、飛び込んだな。
タコづくし。

で、気がついたんだけど、店によって多少の違いはあるんだけど、昔のようにふにゃふにゃじゃないのよ。日本と同じで全く叩いていないもの、少しだけ柔らかくしたものが多くて、あの頼りない感触のものは姿を消してしまった。
そうなると何となく懐かしくなってくるんだけど、探すとなかなかない。
ほとんど毎日タコ食ってたんだから間違いないって。

私が行かなかった約20年のうちに歯ごたえ文化が日本から伝わったのかしら。
私が使えるスペイン語はレストランの中だけで、ややこしい話になるとスペイン語はお経と化すのでその辺りの事情については解明されることはなかった。

ところが昨日、日本のスペインバル風料理屋でタコのガリシア風というのを頼んだらあの懐かしいふにゃふにゃダコの上にパプリカが振りかけてあるのが出てきた。
あら、日本はスペインの20年前の調理法を取り入れているのかしら、と妙な感慨に耽っちゃったな。
ふにゃふにゃも悪くないんだけど、やっぱ、私は歯ごたえだな。

これがスペインでのタコ。見るからに歯ごたえありそうでしょ。おいしゅうございましてよ。

スペインの食い物に不味いものなし。
順次紹介してまいります。