銀座シネパトス閉館だそうで

来年の3月に閉館ということらしい。
東京に住んだことのある方で、おかしな映画が好きな人しか知らないかもしれないが、個人的には大変思い入れのある箱である。

シネパトスは現在は三原橋地下街に3スクリーンを持つ、ある意味立派なシネコンなのだが、簡単にそう言い切れないところが味わい深い。

閉館の理由は三原橋地下街の耐震性問題からだそうだが、そもそも地下街というほどの地下街か。
あれは晴海通りを渡る地下道にお店ができちゃったということじゃなかったの?定食屋さん兼飲み屋さんが何軒か並んでいるが、八重洲地下街とか新宿駅地下街みたいなものと思われると気落ちされるかもしれない。しかし、一見の価値ありである。まだ一度も、という方は是非足を運んでみてください。30秒くらいで通り過ぎることができますから、お時間は取らせません。時間をとりたいという方は昼間っから酒飲ませてくれますから、じっくりやってください。

で、耐震性の問題だが、そんなこと私は大学卒業後就職してから、すぐにここの存在を知ったのだが、危ないんじゃないかとずーっと思ってましたぜ。ここは見た目がそういう印象を与えるのかもしれないが、でかいのが来たら晴海通り陥没するなあ、と耐震性の知識なしに勘で決めていたもの。

そんな地下街で会社勤めしていた時は、確か1館はポルノをかけていたので、たまに仕事が馬鹿馬鹿しくなった時はダラーンと歩いて見に行ってたぜ。不良社員だ。ところが同じような気分の会社員が多かったようで、数人だろうと思って入ると結構ぎっしりだったりした。銀座のサラリーマンの黄昏を見たような気がしていたね。同じ会社の人間を見かけたことがあるが、業務時間中にポルノ見た後で、「どうだった?」と声をかけるのもおかしかろうと、我慢していました。

そもそも私の勤めていた会社は、二日酔いでサウナに行くと必ず同僚に会うという壁に耳ありどころじゃなくて、「よっ!」てなもんで、「内緒にな」と声をかける必要さえなかった。
上司に会っても「なんだ、大倉、お前もか、身体は大事にしないとな」と声をかけられ、「そうですね」ですんだ不思議なとこだった。
ストレスではちきれそうになった社員はゲーセンで必死に宇宙船をやっつけていたし。

今は全くそのようなことはないと思われますから、誤解のないよう。

そんな会社を退社したあとは、シネパトスの本当の味がだんだんわかるようになってきた。
ここは普通はかけんだろうという際物ギリギリのものや、「大失敗、大変なもの見逃しちゃったぜ」と後悔してると「やってるよ」とやさしく声をかけるように、ポスターが張ってあって、助けられたこともある。考えてるんだか、何でも来いだったのか、方針がさっぱりわからなかったが、年に数回はお邪魔していた。

大昔はションベン臭くて、という印象があるのだが、真剣に思い出そうとしても印象だけで、臭かったかどうか記憶にない。多分ションベン臭い印象を残す、決して綺麗な映画館ではなかった、ということなのだと思う。
綺麗でなかったのは事実で、小さなスクリーンに見入っていると、ふと、「俺ってデカダンじゃん」と意味不明の優越感が得られた。時々じゃなくて、地下鉄日比谷線が通るたびに、ドコンドコンゴー、という音が露骨に聞こえたものだ。
あーあのころはなあ、と懐かしく思って行くたびに、椅子こそきれいになっているものの、スクリーンの大きさ、地下鉄の通過音は全く変わっておらず、「あー」と思い知るような、そんなお茶目な映画館。

あれで他の映画館と同じく、入れ替え制で1800円取ってたんだから根性だけはある。

シネパトスがなくなると淋しくなる。
行かなくても淋しくなる。
いつかあの周辺の写真を撮っておこうと思っていたので、今度はちゃんとカメラを持って行こう。地下街、地下街へ降りていく見事なデザインの階段、階段下から見上げる地上の日常はどれもフォトジェニックなのである。
私が撮るので真似しないでいただきたい。

だから、今は写真がない。
困ったな。じゃ、下関で周辺はすべて変わってしまったけれど、私がいた頃からある唐戸の果物屋の写真。