大事なトイレの話

月曜のニュースだったが、「インド最高裁が6ヶ月以内に国内の全学校へのトイレ設置を命じた」というのがあった。

つまり今現在トイレのない学校が多いということである。
その数は半端ではない。40%の学校にはトイレがない。
排泄禁止というわけにはいかないから、外で用を足すことになる。
特に女子の保護者は学校に行かせたがらなくなる。当然本人だって勉強したくても行くに行けない、ということになる。

インドで野グソをたれるのはやむを得ない、と書いたことがあるが、別に好きでやっていることではない。トイレがないからそういうことになる。
これ笑い話にもなるのだが、衛生面から考えれば大問題である。
インドでは雨季に入ると洪水になる地域が多い。
そうなると特にトイレがなく外で用を足している地域は極端に衛生状況が悪化する。

今ではインドへの渡航コレラの予防接種は義務付けられていないが、コレラに罹る時は罹る。
体力が落ちている人、生水を飲んだ人、インド人の真似をしてガンジス河の水を飲んだ人、人に迷惑がかかるからあまりメチャなことはしないように。
「インドに行くには覚悟が必要だ、だからなんでもインド人と同じ生活をするように」と主張する阿呆もいるが、間違い。耐性のあるなしで状況は大きく異なる。
コレラも薬が進歩したので、大流行ということが少なくなった。死亡に至るケースも多くはない。
が、旅の途中でやられると非常に厄介なことになる。
過剰な警戒は旅をつまらなくするが、メチャクチャするのはやめること。

70年代にニューデリーの空港に早朝着陸した時、窓から「インドだー」と外をのぞいていたら、滑走路から外れたところの草むらでやたらしゃがみこむ人が多くて、なんなんだろうと素直に疑問を感じたのだが、そういうことであった。
「のどかだな」とある意味感心したのだが、そういうこっちゃないんだよ。住んでる人には。

インドでの携帯電話の普及には呆然とするものがある。
携帯はケーブルを引く必要がないので、あっという間に広まった。アンテナはあちこち立てなければならないが大規模なインフラ整備が不要だからです。
現在インド人の53.2%が携帯電話を持っている。昔のことを考えればすさまじい進歩だ。
ただし、トイレつきの家に住んでいるのは46.9%。約6億2500万人が屋内トイレを使用できていない。

ニューデリーにもスラムは存在する。でかい駅があり、インドあちこちへ列車が走っている。その線路沿いにスラムができる。最近はスラムであっても、そこにまた貧富の差が生まれている。
比較的スラムでも余裕のある家には衛星テレビ、冷蔵庫、エアコンなんかは当たり前のように置かれている。
しかし、トイレはない。
用を足すのは線路脇である。
そんなに何でもあるのならトイレくらい作れば、と思うだろうが、作れない。
下水施設がないんだもん。

CNNのニュースで知ったのだが、「スラブ・トイレ」という簡易水洗トイレが普及してきているらしい。現物を見たことがないのでなんとも言えないが、貯留槽がふたつあり、ひとつには使用後のモノが溜まり、もうひとつで排泄物が堆肥化できる構造となっているらしい。
これがインド政府によってインド全土に5000万基設置されているという。すごい数だが全然足りていない。

スラブ・トイレで全てが解決されるなら、良かったね、ということになるが、そのあたりどうなんでしょう。私はやはり下水の整備が必要だと思うんだけど、なんせ道路インフラさえ整っていないところに13億人ともいわれる人が住んでいる。簡単にここ工事始めますから、という具合にはいかんだろうけどさ。

インドの安いゲストハウスにもトイレはある。
最近では東南アジアで流行っていた水鉄砲型ウォシュレットも登場し、さらには蛇口をひねるとほとんど日本のものと原理的には変わらない形で水が飛び出してくるものにも遭遇した。あの流れ出たものはどこに行くのかしら。
左手を使ってはいたが、ウォシュレットができるはるか昔から、水で清めるというのはインドでは当たり前の話であった。
しかし、やっぱり下水だよな。

飲料水の確保と下水の整備は、ビルができちゃってもう手の施しようがありませんなんてことになる前に是非取り掛かっていただきたいものである。

6ヶ月以内に全ての学校にトイレをということならば、とりあえずスラブ・トイレということになるんだろうねえ。

牛の糞は壁に貼り付けて乾かし、燃料にできるんだけど、人間のは無理だ。