サンタクロースの来ない国

インターネットなんてもんがおよそどの国でも普及しちゃったので、クリスマス+サンタクロースを知らないガキは世の中から駆逐されてしまったかもしれないが、まだ子供が自分専用のPCなんか持ってなかった96年くらいの話である。
「今は違う」とかうっとうしいこと言わないように。

ラオスとかミャンマーみたいなとこはサンタは来ないんじゃない、という正しいことも話が面白くなくなるからやめてね。
フランスはノエルだよ、っていうことはみんな知っているからこれも違います。

私が毎週ロンドンからスペインのエージェンシーに通って、どうにもなりそうにないことをどうにかしなきゃと苦労していた頃のこと。

ヨーロッパのどの国でもあんたたちどうかしちゃったのってくらいクリスマスシーズンになるとみんな仕事のこと考えられなくなって、やたら「Happy Christmas to you」「Very merry Christmas to you」ちょっと調子に乗る奴は「Super Christmas to you」とか挨拶が全てクリスマスに変わってしまう。
本日24日はロンドンでは午後には営業する会社はなくなり、夕方早くには開いているお店も皆無となる。基本的には26日のボクシングデイが明ける27日までは外食不可能。

前にも書いたように理由は定かではないが、ロンドンに住む連中で信心深い人間を私は個人的に会ったことがない。誰に聞いても「教会、子供の頃に行ったことがあるけど」が普通である。
それがクリスマスになると町の電飾に釣られてか、ただそういう気分になりたいだけなのかキリストと名前のついたこの行事に夢中になる。
クリスマス近くなると、業務中であっても「クリスマスプレゼント買いに行ってきます」と当然のように出て行き、半日帰ってこないことなんか当たり前。「ざけんなよ、仕事しろ」なんて言おうもんならストライキやられちゃう勢いだから黙っている。
実際、クリスマス時期にプレゼントを買ってギフト包装を頼むと、あんたたちどんだけ不器用というくらい時間がかかる。しかも日本人なら自分で包んだほうが綺麗にできます。しかし、その包装紙やリボンを買うのにも苦労するので、ある程度はやむを得ない。日本のお盆と割り切って、楽しませてあげるのが一番かと思います。

そんな時期でも普段でも、何か大きな事件が起こるのがスペイン。
私が勤めていた会社の関連会社だけのことなのか、ずべてこの調子なのかはわからないが、「え〜!、やめて〜」ということになるのよ。
そのたびに「これからマドリッド行ってきます」とか「明日朝一番で行きます」とかいうことになります。あんまりそんなことが続くんで、ヒースロー空港からマドリッドのバラハス空港までの道のりが通勤のような気分になってきておりました。
もしかしたらうらやましく思う方々がいるかもしれませんが、日帰りか一泊なんで本当に疲れる。交渉がうまく行かなかった時にはスペインの空港ですっかりうなだれていたりしました。

そんなことがクリスマス直前にもあった。
前から東京にいる知り合いにベレンと呼ばれる、キリストが誕生した馬小屋のジオラマのようなものを買って、送ってくれと全く遠慮のない頼まれごとをしていたので、まあ、その用も済ませられるかと出かけました。
今となってはそのときの事件が何で、どうなったかなんてさっぱり覚えていないんだけど、とにかくベレンだけは買わないとまずいと、プラサ・マイヨールに行ってみたら、普段の広場とは様子が一変していて、そこそこ大きなとこなんだけど、同じにしか見えない店で埋め尽くされてる。
「馬小屋の模型だろ」くらいに思っていたら、バカみたいにでかいのもあるし、マリア様だの産婆さんだのよくわからないヒゲ爺さんたちだのが全部セットになっていて、そもそもこれ日本に送れるんかいというほどの荷物である。
わかんないんだから適当にと購入したのはいいが、ロンドンに持って帰ってということはありえないので、スペインの同僚にお願いした。

その時に「この騒ぎは凄まじいね、子供たちはどんだけサンタのプレゼントを楽しみにしているんだろね」と聞いてみたらビックリ。

「スペインにはサンタクロースは来ないんだよ」
「はっ?日本にも来るのに、何で来ないの」
「プレゼントも24日の深夜にはもらえないんだよ」
「全世界的に悪い子にはあげない、って歌いながら来るでしょ、普通」
「来ないんだな」
「プレゼントなしでいいの。いい習慣だねえ」
「違う。1月6日に東の砂漠から3人の賢者がやってきて、プレゼントをあげるの」
「東ってバルセローナ?その先は地中海じゃん。どこの砂漠から来んの」
「そんなことどーでもいいんだよ。とにかく砂漠から3賢人なの」
砂漠だ、3賢人だ、っていきなりかまされても何のことだかさっぱり。
キリスト教徒でもないのに、クリスマスプレゼントをねだっていたつけが回ってきた。

そういえば3人の誰かがキリスト生誕を祝いに来た、ということはなんとなく聞いたことがあった。
しかしさ、プレゼントも3賢人がくれるってどういうこと。あくまでもあの方々はお祝いに駆けつけただけで、そこいらのガキには何の関係もないじゃん。

少し調べてみたが3賢人、あるいは3人の博士の正体は定かではない。何人来たかも聖書には書かれていない。名前も後から付けたようだから、場所によってバラバラ。どの砂漠かもよくわからない。ペルシャあたりという説もあるらしいが、それじゃゾロアスター教の偉い人になっちゃうんじゃないの。

ということで、もともとクリスマス、サンタクロース自体、起源はキリスト教とは縁もゆかりもないところから来ているという説が強力でございます。しかし、わざわざクリスマスイブで皆さんが楽しんでいるところに水を差す気もないんでこのくらいにさせてくださいな。

でもさー、スペインじゃクリスマスの子供の歌はどうなるんだろう。サンタは出て来れないのかしら。「サンタクロースイズカミーントゥターウン」ってのはなしなのかね。
そのあたりについては私もクリスマスを自宅で過ごすために急いでいたんで、聞かずに帰ってきてしまった。悔やまれる。

最近では24日深夜のプレゼントをねだる不心得なスペインのガキがいるらしいが、なんだかよくわからない文化はできるだけそのままにしといたほうがいから、サンタはいない、プレゼントは6日ということのままにしておいてくれたまえ。

これがベレン