アルメニアで髪を切る

既に何度も私の理容室へのこだわりについては書いたのだが、人生に新しい展開が起きたのでそれについてひとつ。

髪が薄くなってくると必要以上に髪の整え方が気になってきていた。
私はすだれにする気は全くなかったし、あえて短くすることで「薄い」という事実を隠せると思い込んでいたからである。隠せませんがね。
髪がたくさんあった頃はどうでもいいから適当にやっといてください、だったんだけど、短くしてからは微妙にそこはやや長めにとか、ヒゲはこんな風にとかお願いしてたんだな。今から思えばつまらんことだ。

旅に出る前のブログで長年お任せしている石田さんに髪を切ってもらう間に、爪の手入れとかしてくれる高橋ちゃんがいなくなってしまうという話を聞いてから実は多少の心境の変化が起きていた。
もう、こだわることは何も無くなっちゃったな、とやや人生を投げようとしていたのである。「髪は長ーい友達」というCMが昔あって、くだらないと思いながらうまいこと言うねえ、と少し感心していたのだが無くなっちゃのに友達も何もないだろうが。

旅に出る前からどこかで短くしないと暑くてたまらんということになることは分かっていた。
スペインの暑さは尋常ではなく、非常に乾燥しているので汗はすぐに蒸発してしまうのだが、頭の回りに生えている毛が伸びており熱がそこに滞留してしまい夜も頭が暑くて寝られなかったりした。
人に言わせれば帽子かぶんないからてっぺんで吸収した熱で熱中症になるのよ、ということだ。
そうかも知れんし、そうでないかも知れん。
しかし、繰り返すが私は冬のニット帽以外は帽子が嫌いなの。
そういう生き方しかできない不器用な人間なんだよ。

で、スペインでは我慢して、アルメニア次第だな、と思案していた。しかし、アルメニアの気候をいくら調べても今週、あるいは今日明日の天気がまるで分からない。世界中で気候を無視されている国だ。

アルメニアの日差しもスペイン同様肌に痛いほどの強烈なものだった。
わかんないねえ。そんなに暑いところだとは思わなかったんだけどね。
私は即座に髪を切ることを決意した。

アルメニアの首都イェレヴァンで理容室に入るのだ。
私の投宿したホステルの前はどーでもいいものを売っているミョウチクリンなでかいマーケットになっていて、そのそばに美容室、理容室が並んでいる。
ここで切る、と決めて迷わずに突進した。迷い始めると心が萎えるから。

理容室だから切るのは男なんだよ。
アルメニアの男性の80%は凄いマッチョ。コーカサスの男たちの血はすぐに沸騰しそうな気がする風に見えるんです。
入って失敗したと思った。
マッチョをさらに一回りマッチョにしたような大男がこちらを見て目をまんまるにしている。真っ黒に日焼けしたモンゴロイドがいきなり侵入してきたんだから無理もない。
英語は全く通じない。アルメニア語は全くわからない。ロシア語はスパシーバとハラショー、飲み屋で教わったナ・ストローヴィア(乾杯)以外口に出せる言葉を知らない。
私はまずは得意の笑顔で強行突破を試みた。
少し空気が緩んだところで、「スリーミリメーター!」と指で3ミリの長さを示しながら頭全体とあご髭を撫ぜまわしつつ何度も絶叫した。
通じたよ。
もういいから座れと指差され、理容台につきました。

そこからは早かった。
一応首にビニールシートを巻いてくれると電動バリカンを手にした大男は凄い勢いで髪をそぎ始めた。
頭頂部は最初ははさみで対応しようとしていたのだが、すぐに面倒になったようで、再びバリカンで撫ぜるように3ミリに揃えていく。そうなんだよね。頭頂部もバリカンで問題ないんだよ。
そこからは意外に繊細で別のバリカンを持ち出し、細部を削って行ってくれている。
時々こちらを覗き込んで「これでいい?」と青くかわいい目で確認してくれる。

10分弱で髪を始末して、ドライヤーで残り髪を吹き飛ばしてくれる。
シャンプーするか?と身振りで聞かれた。全身から水分が汗になってひからびていた私はこれは絶好の機会とお願いした。
お〜お〜、マッチョは力があるなあ。
頭を揉むように洗ったら、顔までグシャグシャグシャと一緒に洗ってくれた。頭も顔も同じ洗剤なんだね。

ドライヤーを当ててくれたが既にほとんど乾いている。
Tシャツが少し濡れたんでそこを乾かしてくれた。

すべてが終わって13分ってとこ?
3000ドラム。約700円。
生まれ変わったような清々しさで、皆さんにお辞儀しながら店を出た。

私はアルメニアで気づいたのである。
私の頭は13分だと。

石田さんにはこれまで大変長い間お世話になったが、最初の頃とは私の頭の仕様は変わってしまったんですよ。
今後は13分散髪でいくことにいたします。
こんなところでなんですが、本当にこれまでいろいろ気を使って髪を整えてくださってありがとうございました。
大倉は人生の新しいステップを一歩踏み出すことにいたしました。

こうなったらどこの理容店でも同じだ。
13分以内でやってくれとお願いしよう。
全部3ミリ、バリカンでいいんだ。
アルメニアで学んだんだ。
絶対にできますから、よろしくお願いいたします。

坊主頭にするならアルメニアはお勧めだ。
行ってみたい人がいたら場所を教えますからご連絡ください。

ここで本当はアルメニアの写真を出すべきところなんだけど、ばかでかい容量で写真を撮ったので、まだここに出せる状態に落としておりません。しばらくお待ちください。

剃んないけど、今度はミャンマー辺りで試してみよう。

ヤンゴンミャンマー